第15話 英雄、望んで見習い竜牧民になる

「まぁ、旦那様! それにお付きの方々! こんなに早くまたお越しいただけるなんて!」


 サーリヤが見せる満面の笑顔は、相変わらず艶と華やかさに満ちていた。

 借りていた竜に乗ってひとっ飛び、また竜牧民の村を訪れた僕たちは、早速族長の家……つまり、サーリヤの実家に招かれて大歓迎を受けていた。


「馴れ馴れしいですよ! ソウガ様はあなたの旦那様ではありません!」

「だから落ち着いてくださいっての。……しっかし、少尉もわかりやすい人ですなぁ」

「ガストンさんはなんとも思わないんですか? お付きの人扱いされて!」

「いやまあ……事実ですからね。特に俺は」


 脇がどうもガヤガヤうるさいのはあえて無視し、


「事情は、今話したとおりなんだ。とにかく僕らはこの土地で自活できないと飢え死にだ。甘い考えと怒られるかもしれないけど、僕たちにも竜飼いの仕事をさせてもらえないかな?」


 こっちはこっちで、隙あらば距離を詰めてこようとするサーリヤとの間合いを保ちながら、僕はどうにか本題を話し終えた。


「お仕事などなさらずとも旦那様と召使いのひとりやふたり、私が喜んで養って差し上げますのに……」

「うん、まあその……そこが問題だからお願いしてるんだよね。御子だとか結婚だとか、それは一度脇に置いてもらって……」

「でも、そうやって我が一族に自分から溶け込んでくださろうというお気持ちが、とても嬉しいです。やはり私の目に狂いはなかった……これはもう、本当に運命の出会いとしか思えません」


 話が通じているのか、いないのか……。

 いや、それはともかく、決死の抵抗むなしくついに懐に入られてしまった僕。

 ぎゅっと僕の手を握ったサーリヤが、鼻に抜ける甘い香りを漂わせて僕にしなだれかかってくる。


「やりましたな、おひい様!」

「なんともめでたい日だ! おい! もっと酒を持ってこい!」


 それを見た、一族の幹部らしきおっさんたちがすっかり出来上がった顔色で騒ぎ立てる。

 ……大丈夫なのか、この人たち!?

 仮にも族長の娘さんが、よくわからんよそ者と結婚するとか言い出したら、普通は反対するんじゃないの!?


「聞きましたか!? わちたち、召使い扱いですよ! ……ちょっと! 離れてください! 軍紀が……軍紀が乱れますから!!」

「少尉、なにしれっと飲んじゃってるんですかアンタ!!」

「うるさーい! ガストンも飲め! 上官命令ですー!」

「俺はもう民間人です。それに、酒は断つと決めたんです!」


 助けを求めようにも、僕の数少ない味方はもうダメだ……。

 これはもしかして、お願いする部族を間違えたかもしれない。

 などと、一瞬後悔の念が頭をよぎったりもしたが、もはや後の祭りである。とにかく今は、サーリヤからしっかりと約束を取り付けるのを優先しよう。


「それじゃあ、僕たちを見習い竜牧民として受け入れてもらえるということでいいのかな?」

「もちろんです。早速、新居を建てなければいけませんね。私たちふたりの……愛の巣を……」

「僕と、ガストンと、シオの分ね。そこはまだ、ね? ケジメは付けないとね?」

「やはり帝国本土では婚礼を挙げるまでは……ということなのですか? でしたら……私もしきたりは尊重しないといけませんね……」


 通じていない部分は、もう目をつぶろう。

 今さら宴会を止めるのも無理って空気だし……とにかく言質は取ったということで! 良し!

 

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