第13話 ケジメと再出発

「ソウガさん、ちょいとお話……と言うか、お願いが」


 サーリヤたちに分けてもらった食材を使って朝食を済ませたところで、ガストンが神妙な面持ちで声をかけてきた。


「お願い?」

「ジャンとタジマのことです。図々しいとは承知してますが……ふたりの任務を解いて、国に帰してやっちゃもらえないでしょうか」


 真面目な話になりそうだ。僕はシオを呼んだ。


「ジャンは、田舎で婚約者が帰りを待っています。タジマも女房に二人目が生まれたばかり……。ここへの赴任を命じたガバジマ……いや、カバシマ中佐はナロジアの捕虜だ。もう、いいんじゃないかと思いませんか?」


 シオが僕の隣に座ったところで、「お願いします」とテーブルを挟んだ向こう側でガストンは頭を下げた。


「気持ちはわかるけど、今の僕はただの一兵士だ。現地での緊急を要する人事権は、士官にしかない」


 言って、僕はシオを見た。ガストンも同様にシオに向き直る。思いもよらない展開に、シオが目を丸くした。


「し、士官て言われても……わち、主計科ですよ?」

「あ、そうなの?」


 主計科とは、大変ざっくり言って軍隊に関わるお金の出し入れを取り扱う部署のことだ。基本的に銃や剣を取って前線に行くような兵科ではなく、一生を後方勤務で終える者がほとんどである。


「まぁ主計科だって、少尉は少尉だ。今、ロガ自治区の帝国軍でシオより高い階級の者はいない」

「そんなことをして怒られませんか? 基本的に緊急時以外はダメなんですよね?」

「問題はそこなんですが……何とかならんもんですか?」


 ガストンが、頭をかいた。


「ちょっと裏技だけど……策が無いでもない」


 僕は言った。


「ガストン以下三名は、栄えある旭光帝国軍人としての本分を忘れ、上官であるシオ少尉の命令に従わなかったばかりか、暴行すら働こうとした……そうだね?」

「面目次第もございません!」

「うん。申し開きできない重罪だね。ということは、これはもう現地駐在武官としての適性を疑わざるを得ない。本国へ送還し、転属させるのが妥当である。現地のこれ以上の混乱を避けるため、迅速に対処すべきと判断する……はい、これで立派な緊急事態だ」


 ガストンが目を輝かせ、シオがぽかんと口を開けた。

 ただし……と僕は付け加える。


「そういう事件が起きてしまったと報告する以上、誰かが責任を取る必要がある。ジャン二等とタジマ二等のお咎めを無しにするためには、赦免に足る情状酌量の余地を作らないといけないな。例えば……」


 僕がそこまで言った時、ガストンが襟の階級章を引っぺがし、テーブルの上に置いた。


「ふたりは俺に強要されただけで本意ではなかった。首謀者は俺です。抗命罪は銃殺……だと俺もちと困るんですが、なんとか懲戒除隊ってところでケリつきませんか?」

「懲戒除隊は、除隊後の恩給も一切出ないよ?」

「承知の上です。俺は独り身だ。養う親兄弟もいません」


 ガストンに迷いは無いようだった。

 本来、ガストンは知恵も度胸もある優秀な軍人なのだろう。僕がまだ将官の地位にあって彼の存在を知っていたら、麾下きかに望んだかもしれない。


「うん、これでタテマエとしては筋がついた。あとは……少尉殿の判断ですね」


 僕は言って、再びシオを見る。


「ジャン二等兵とタジマ二等兵の任を解き、本国へ送還します。首謀者であるガストン上等兵は、反省の意思ありと判断して罪一等を減じ、懲戒除隊処分を命じます」


 シオの判断も速かった。ちゃんと勘所は心得ていて、僕に助けを求めるようなこともしない。

 さらに、


「その上で、ガストン氏にその意志があれば、民間協力者として現地採用したいと思います。給金は少ないですが、いずれ本国に戻る資金になるでしょう。……いかがでしゅか?」


 僕もそこまでは考えなかった粋な計らいまで見せてくれる。

 大事なところで噛まなければ……完璧だ。


「寛大なご処置、感謝に堪えません! ご恩を返すためにも、シオ少尉殿、タツミヤ上等兵殿に、このガストン、今後も誠心誠意お仕えいたしましゅ!」

「……やっぱり銃殺刑です」

「まぁまぁ……」


 シオとガストン、彼らとならこの辺境でもうまくやっていけそうだ。

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