第5話 「妹はおせっかい」
小野さんと別れたあと、僕は電車に揺られ帰路に着くと、ソファに倒れこんだ。
初対面の女の子と面と向かって、しかも感情的に話すのは久しぶりだったからか、予想以上に疲れていたために、気づいた時にはスヤスヤと寝息を立てていた。
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「………ゃん……お兄ちゃん…………もうすぐ夜ご飯だから起きて。お兄ちゃん」
そんな声が聞こえ、ふと目を開けるとエプロン姿でポニーテールにしている妹こと、菊乃レイカ。17歳。高校二年生が腰に手をあて僕を覗き込んでいた。
「…………ん、レイカか…………お、おはよ……………」
「やっと起きた。まだ半分寝てるでしょ。しょうがないお兄様ですね。さっさと風呂入って目を覚ましてきなね。それと、ソファの近くに放り投げられていた、お兄ちゃんのバッグは部屋に置いといたから」
「あ……ありがと………」
「えへへ〜、感謝したまえ!」
そう言って満面の笑みを浮かべたレイカは台所へ戻っていった。
僕は部屋行き、パジャマを手に持つと、お風呂に向かった。
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トイレもそうだが、風呂場という個室はどうも考え事をしてしまう。
まぁ、名前を忘れてしまったが、この原理には正式な名称があるらしいので世の中の心理なのだろう。
僕は頭と体を清め、浴槽でお湯に浸り、今日の出来事を思い出す。
小野ユイさん。17歳。よくよく考えると、レイカと同い年だ。
セミロングでストレートな黒髪。今日だけで、色々な表情を見せてもらったが、笑顔の印象が一番強い。とても明るい女の子だった。
今回、彼女が読ませてくれた話は「自殺」をテーマにした、スタートが少々陰鬱なエピソード。
可愛らしい見た目とは裏腹に、題材にしている内容が結構重い。
ギャップが凄まじかった。
内容自体は、最初、暗いスタートで「ゲッ」と思ったが、だんだんと明るい話になっていき、最後はどんでん返しがあってのハッピーエンドとは言えないけど後味も悪くない話で、すごい引き込まれた。
そんな、面白いストーリーを構成できる素晴らしい才能を持っている小野さん。
第一印象が基本、悪い僕の雰囲気、そして、性格や、やりたい事を受け入れてくれようとした。
正直、今の現状で悪い話は一つもない。
だけど……と僕はそんなことを頭の中でひたするループさせていた。
するとお風呂のドアのすりガラスにシルエットが浮かんだ。
「お兄ちゃん。まだお風呂入ってんの? もう1時間以上出てきてないんだけど、もしかして寝てる? 風邪ひくよ? それに、私も入りたいから、早く上がって!!」
気づいたら、ひたすら同じことで長考していたらしい。
「起きてるから大丈夫。すぐ上がるよ」
僕は妹にそう告げ、急いで湯船から出た。
結構な長風呂だったために、浴槽を出た瞬間、少しフラついた。
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僕が上がるとレイカは入れ替わるようにお風呂に入った。
その間に僕はご飯の準備をする。
今日のメニューはハンバーグとコンソメスープらしい。
食器棚から白くて丸い薄皿を2枚とり、それぞれにハンバーグを置く。
そして彩に、茹でてタッパー保存しているブロッコリーと、レイカが作ってくれた人参の甘煮を2個づつ、ハンバーグの隣に盛り付ける。
後は、白い薄皿を用意して、ご飯をよそいライスにして、コンソメスープは底の浅いマグカップに入れた。
それを机に持って行き、今のうちに残った人参をタッパーに入れ、フライパンや鍋、その他調理器具を洗った。
とりあえず、一通り支度が終わったのでボーッとソファでテレビを眺めていると風呂から上がり、髪を下ろしているレイカがやってきた
「お風呂あがったよ〜♪ それじゃ、ご飯食べよ!」
僕は頷いてレイカと食卓についた。
「「いただきます」」
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ご飯も食べ終わり皿を洗ってソファに腰を下ろす。
すると
「お兄ちゃんが寝ている間にプリン作ったんだけど食べる?」
「食べる」
レイカは冷蔵庫からプリンを取り出し、僕にスプーンとプリンを手渡すと、隣に座った。
「今日はどうだったの?」
僕の肩に寄りかかりながら、そう聞いてきた
「分かってるんだろ」
「ははは〜、オチが分かっていても、聞いてあげるのがお約束なのだよ! お兄ちゃん!」
「そんなお約束、いらない」
「でも、私は聞いてて楽しいよ!」
この妹さんは笑顔でプリンを掬ったスプーンを咥え、そんな事を言ってきた。
まぁ、楽しいのなら、何よりですけど。
「少しは気を使って、何も言わないのが正解だと思うのだけど……」
「お兄ちゃんに気い使ってもしょうがないじゃん。何か出てくるわけでもないし」
「一応、年上でお兄さんなのだから、敬ってください」
「私の敬い方はこれなの」
今日のレイカさんは本当に機嫌が良い。
すっごく楽しそうです。
「で、何があったの?」
「だから、いつも通り編集者に同じようなことを言われた」
「それだけじゃないでしょ。何かあったでしょ?」
「………………」
「ほ〜ら何かあった。お兄ちゃんがだんまりを決め込む時は何かあった時だよ。早くぶっちゃけなよ。こんなお兄ちゃんをずっと相手するのはレイカ的にめんどくさいし」
悩みを聞くために言ってくれたのかと思ったら、自己保身のための意見だった。
「………な、なんで分かった?」
「だって、今日のお兄ちゃん、レイカが帰ってきてからずっと変だったし」
「いつもと、そんなに変わらないでしょ」
「はぁ? 何年一緒にいると思ってんの? 分かるに決まってんじゃん。ほらほら、早く話な。なんのためにプリン作ったと思ってんの? プリンの借りを返すと思って話なよ」
僕は、肩への寄りかかりをさらに強くしたレイカへ、今日の出来事を話はじめた。
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