第2話 「喫茶店へ行きました」

「何頼みます?」



現在、先ほど話しかけてきた少女と、喫茶店の座席で、向かい合わせに座っている。


壁は全体的にシックな木目調。机は丸テーブルで、椅子の背もたれにはロココ調の飾りがあしらわれている。そんなテーブルや椅子は壁に合わせた材質の木で作られている。また、所々に設置されているソファは濃いこげ茶で座ると背中とお尻を心地よく包み込むぐらいフカフカ。


正直、「僕が居座るにはオシャレすぎて場違いでは?」と、自分の頭の中を警告音が喚き散らしている。




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少し前の事




「さっき、あの出版社に持ち込みをしていた方ですよね? 実は私もさっき持ち込んでたんですよ!」


いきなり肩を叩かれて、呆気に取られいたら、少女は、少し緊張した笑みで、そんな事を口にしてきた。



「は、はい……そうですか……」

「実は私、今日初めて持ち込みっていう事をしたんですけど、結構ひどい事言われちゃって…… それで、出版社を出ようとしたら死んだ魚のような目で相槌を打っているあなたを見て『この人も結構言われちゃってるのかな』と思ったら親近感が湧いたんです!! だからお互いの持ち込んだ作品を見せ合って、傷の舐め合いでもしたいなぁって思ったんですけど、、、、 ど、どうですか?」


遠慮がちな態度で、遠慮とは程遠い提案をしてくる彼女。


確かに彼女の容姿をよく見ると、見覚えがあった。

出版社に着くやいな、受付で予約の旨を伝え、指定されたロビーのソファで座っていると、エレベーターホールからカーキの肩下げバッグをしている彼女がやってきて、ソファに腰掛けた記憶がある。


「まぁ、言われるのはいつものことだから……」

「い、いつも? もしかして持ち込みへはよく行かれてるんですか!! 持ち込み先輩じゃないですか!! 是非そちらの話も聞きたいです!!! あっ、もしかして、このあと用事があったりしますか?」

「い、いや…特段ないけど……」

「だったら、お話ししましょ!! ね!!」


そう言って、目を煌びやかに輝かせた彼女に手首を捕まれ、気づいたら一人では入るには勇気のいる見た目をした、オシャレな喫茶店の扉を開け「カランコロン」とベルを鳴らしていた。



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「あ、あのぉ、何頼みますか?」


「へぁっ、えーっと…ブレンドコーヒーのホットで」

「じゃぁ、私はゆず茶頼みますね。すみませーん、注文お願いしまーす」


一通り、注文を終えると彼女が口を開いた。


「いやぁ、何も考えずにこのお店に入ったんですけど、結構オシャレで緊張しちゃいますね」


おっしゃる通りだ。


でも、そんな事より


「えぇっと…僕はまだ。行く行かないの有無を伝えていなかったのだけど……」

「あっ………。す、すみません。私って思った事があると、他の人の気持ちを考えずに動いちゃって……。 今回は漫画を書いている同い年ぐらいの人を見つけちゃって、何だかそれが嬉しくてつい!! お話ししてみたいなぁって思ったら勝手に……。迷惑でしたか?」


彼女は少し俯き顔に翳りを作りながら、申し訳ないといった声色で返答してきた。

やばい、まずいことを言ってしまった……


「い、いや……そういうわけでは……」

「ほ、本当ですか! なら良かった‼︎」


彼女は顔を上げ、声音も完全ではないにしろ、最初聞いた声に近くなった。

良かった。とりあえずフォローはできたようだ。



「そ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私ったらお互いの名前も知らない人を強引に引っ張ってきちゃったんですね。あはは……えっと、私の名前は小野ユイって言います。17歳です!!」


薄々思っていたが、小野さんは未成年。しかも年齢から考えるに女子高生だろうか。

これはちょっと、よろしくない。

だって僕は…


「あっ、はい。えーっと……僕は菊乃シュウって言います。21歳です」


そう、僕はとっくに成人している。

しかも今日は平日の昼過ぎ。

こんな時間帯におしゃれなカフェで未成年と二人でいるとなると、周りの視線が気になった仕方ない。

今だって、あの店員さんがチラチラこっちを見ている気がするし、近くの席で午後のティータイムを楽しむ奥様2人組もこちらを見て、何か良からなぬ話題を話している気もする……


そんな僕の気持ちはつゆ知らず、小野さんは


「えっ!! 21歳だったんですか!? 高校生ぐらいだと思ってました」



と、周りの視線なんかお構いなしに話を続ける。


あと、さりげなく失礼。

まぁ、良い。これも言われ慣れている……

そんなことを、頭の中で考えていると、小野さんが



「それじゃぁ、本題に入りましょ!! 私の作品を見せるので、シュウさんの作品も見せてください!!」


と、当初の予定を提案してきた。

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