足りない二人の作品集
みっちゃま
第1話 「始まりは道路で」
「絵は上手いんだけど、話がね……」
そう言って僕の目の前に座っている男性が原稿を返してきた。
またか……
いつものことだ……
自分で言ってしまうのもあれだが、僕は絵が上手い。
両親や妹にも、他のことはからっきしだが、ペンを手にとり、頭に浮かんだイマジネーションを紙に描くことだけは褒められていた。
この絵なら本屋さんでプロの漫画家さんの絵と並んでも浮くことはないと手前味噌ながら思っている。
ただ、いかんせん 僕にはストーリーを考える才能がこれっぽっちも無いらしく出版社に持って行くといつも言われる。
どの出版社に持っていっても、どんな編集者に見せても、同じことを言われる。
「絵は上手いんだけど、話がね……」と
僕は、愛想笑いを浮かべながら編集の男性のアドバイスを聞いた。
でも、その言葉はいつも同じ内容だ。
「耳にタコができる」なんて例えがあるけれど、そう例えるには育ちすぎている。
そんな同じ内容のアドバイスを、毎回取り入れて新しい作品作りに挑戦するが、
結局、耳のタコを育てるだけに終わる。
もう分かっている
才能が無い事ぐらい
でも、足を運んでしまう。
誰かに言われたわけではないけど……
行かなければならない理由はないけど……
いつも同じ言葉を浴びせられるけど……
出版社へ行ってしまう。
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今回も、聞き慣れたアドバイスを頭に詰め込んだら
「ありがとうございました」
と、ぎこちない笑みを浮かべながら、頭を下げて出版社を後にした。
言われた事はメモしているが、書いている事は毎回同じ。
受験テストで「あなたが漫画を描くにあたって足りない部分はどこ?」なんて問題があったら、模範解答と言っても過言ではない内容を書けてしまうぐらいには暗記している。
そんな何の役にも立たない紙切れを小さく手で丸め、ポッケに入れながら駅へ向かった。
すると
「あのぉ……」
と、遠慮がちに言う女性の声が聞こえた。
誰か落し物でもしたのかな?
そう思いながら駅へ向かう
「あのぉ、すいません……」
声は少し大きくなり、強めになった。
「女性も大変だなぁ」
「声をかけられている相手も、早く気づいてあげなよ」
そんな言葉を頭に浮かべながら、駅への足を早めようとしたその時、
トン トン
「あのぉ……」
肩を叩かれ、後ろから呼ばれた
落し物をしたのは僕だったらしい。
これは申し訳ない事をした。
そう思いながら振り向くと可愛らしい女の子が立っていた。
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