第40話支援職は魔族四天王をぶち殺す
「ガァァァァァァァァァア!!」
深淵の闇、としか形容しがたい双眸の瞳を光らせて、怒りの咆哮をあげる魔族四天王ジョシュア。
「レ、レオ様、頑張ってくださいなのね!」
「ああ、勝機は必ずある!」
俺の剣は白銀に輝く聖剣……と、言えるくらい美しい剣だった。
「レオ様っ! 頑張ってぇ!」
クロエが更に声援をおくる。女魔族、エミリーはニヤニヤと笑い、完全に舐め切っている。
チャンスだ。本当に怖いのは四天王のジョシュアじゃない。魔女であるエミリーの方だ。
こいつが、舐め切って油断しているところに勝機がある筈だ。
それに剣から力がどんどん入ってくる。これ、マジ聖剣と呼んでも差し支えないんじゃ?
俺が攻撃魔法の符術を放つと、咆哮をあげて仰け反る。今が攻撃チャンスだ。
「おおおおおおおっ!」
意識を集中して、剣に魔力を更に注ぎ込む、だが、逆に剣から力が俺に帰ってくる、信じられない魔力の奔流、俺の力は数倍に増した。走りながら、俺は一旦貰った力を更に剣に返し、力を蓄える。
なんだこれ? それは何故か懐かしいような感じだ。
いつか、この剣をふるったことがあるかのような。そんな既知感を覚え、とある人物の顔が頭に思い浮かぶ。
英雄アレックス。英雄と呼ばれ、英雄の称号を得た唯一の存在。何故かその男の顔が頭に思い浮かぶ。
――人の世界を守るのだ、レオ! お前は英雄となる者、この世界の守護者。
脳裏に会ったことがないはずの英雄の声が聞こえてきた。その言葉を聞くと、更に力がみなぎったような気がした。
「冥王破妖斬!!」
俺の全ての力を剣にこめて、技を放った。
魔力だけではない、聖なる何か、そんな金の粒子をまとった力の奔流がジョシュアを襲う。
「……グアァァァァァァアア」
凄まじい。
まるでこれでは伝説の聖剣アルベシオンじゃないか?
この剣、ただの剣じゃない。
「ああ! さすがレオ様。あの魔族にかなりの――え?」
クロエが何かを叫ぼうとしていたが、何故か途中で途切れた。
「…………!」
「は?」
ジョシュアに吸い込まれた聖剣の斬撃は凄まじい威力だったが、一旦吸い込まれたあと、更に被害を四天王ジョシュアに広げて行った。
ジョシュアは光り輝く聖剣の斬撃の光を一旦吸収するも、更に膨張した光は魔族を蝕み、そして、その体の全てを破壊した。
そして、勢い余ったのか、魔族を突き抜けて、ダンジョンの上に大きな穴をあけてしまい、穴から見えたものは……
空にまばゆく二つの月のうち、一つが大崩壊を起こしていた。
「……あれ?」
おい。
おいおい。
ちょっと待て。
なんか、四天王ジョシュアが一瞬で消し飛んだような気がするんだが、間違いだよな?
あんなの一人で倒すとか、頭おかしいんだろ?
「……まさか」
剣を振るった時に感じた力、金の粒子を振り撒く聖なる力。
もしかしてこの剣、伝説の聖剣と同種で、魔族や暗黒の魔物全てに特攻を持っているとか――?
あの異常な瘴気の魔族、ジョシュアを一撃とか……
「非常識すぎるだろ、これ……」
あまりの威力に、俺も驚かざるをえない、が。
シーン、と。
これだけ激しい戦いが続いていた戦場に突然静けさがやってきた。
間抜けな顔の女魔族エミリー。
空いた口が塞がらないクロエ。
エルフ族のみなさんは。
ジィー……
なんだろう? この気持ち? お願いだから、そんな目で俺を見ないで!
そして、ぽかんと口を開けたままのエミリーが俺とジョシュアの残骸を交互に見やっている。
「まあ……その、あれだな」
重くるしい沈黙に耐えかねて、俺は弁解のため言った。
「ちょっとやりすぎてしまったな。は、はは……」
「「ちょっとっていうレベルじゃない!!」」
全員からツッコミが入った。
いやな。俺だってね。聖書に載っている魔族四天王に勝てるどころかね、一撃で吹っ飛ぶとか思わなかったんだよ!
俺は剣を携えたままエミリーに近づいた。
そして。
「俺の質問に答えろ。答えればしばらく生かしてやる。質問以外でも有力な情報ならしばらく生かしておいてやる。嘘を言わなかったらしばらく生かしてやる!」
「ひ、ひぃ」
エミリーがどうもお漏らしをしたようだ。
「まず、お前らは人を使って、一体何をしてたんだ?」
そう、俺の疑問。魔族は食事のために人をさらっているにしては、あまりにも多すぎる。他に理由があるはず。それに、ここまでに来る途中にいた、半魔族? 半魔族とはなんだ? 聖典にも記載がない。
半魔族とこの人さらいには関係があるんじゃないか?
「あ、あたしたちが人さらいをしてたのは、実験をするためよ! ほんと、信じて、だから殺さないで!」
こいつ、なんか勘違いしてないか?
命乞い?
こいつを生かしたら、更に多くの人が酷い思いをする。
いや、既にこいつらのした事は許容を超えているんだ。
生かすなんてあり得ないだろう?
ちょっと考えればわかるだろうに。
「次に実験の内容はなんだ? 半魔族と関係があるのか?」
「実験は強力な半魔族を合成するためのものなの。強い魔力を持つ人間と魔物を合成すると稀に強力な半魔族が誕生するのよ。四天王ジョシュアは練成魔法の応用で合成魔法を編み出したの」
やはり半魔族は魔族の人さらいと関係があったか。
だが、今聞き捨てならいことを聞いた。
稀に強力な半魔族が誕生する? 稀に? では、その稀以外の人達は?
「最後に質問する。半魔族の合成に失敗するとどうなるんだ?」
「は、半魔族の成功率は10%位で、強力な半魔族が誕生するのは1%位よ」
「半魔族になれなかった人はどうなったんだ?」
「ま、魔物と人の混ざった、ただの肉塊になるの」
やはりか。
知りたい事が全部わかった。
後は処すだけだ。
だが。
「……レオ様」
クロエが俺を見つめる。何となくわかった。クロエは俺がこの女魔族エミリーを惨殺するところを見たくないのだろう。女魔族エミリーは魔族だが、なかなか美しい姿をしている。
「あ、あたし、ほんとは人間に酷いことなんてしたくなかったのよ。それにあたしは何もしてないし、あの、ジョシュアが勝手にやってただけで、わかるっしょー?」
そんな事が信じられないな。
何より、こいつも人さらいの関係者だ。
許せる訳も無い。
こいつ馬鹿か?
俺がこいつらを生きて返すと思うのか?
「じゃあ、処すな?」
「え?」
エミリーは素っ頓狂な声を上げる。
「俺は言ったよな。聞いた事に答えればしばらく生かしてやるとな。生かしてやるとは言っていない」
「や、やめてぇー!!!!!! お、お願いだから!!」
エミリーはへたり込んで、またお漏らしをしてしまった。
こいつ、さっきもお漏らししたばかりなのに……こいつの膀胱はどうなってんだ?
「あ、あたしを殺す気? あたし、女の子よ? それを殺すの? あんた正義感強いんでしょ? 正義のヒーローは女の子は殺さないっしょー」
まあ、正義感は強いかな。
確かに女の子に直接手を下すとかは躊躇するな。
だがな。
俺にはエルフの人達の怨嗟の目でわかった。
エミリーを見つめる目。
これまでジョシュアとエミリーが何をして来たのか?
あるいはエミリーがそれを見て止めもせず、何もしなかったか?
ジョシュアとの決着がついたので、クロエがエルフの人達の牢獄の扉の鍵を開けていた。
そして、俺とエミリーをエルフの人たちが取り囲む。
「ありがとうございます。わしはエルフの里の長です。なんと感謝していいか」
「頭を上げてください。それより、このエミリーという女魔族。この女はどうされますか? どう処すかはあなた達に任せます。それと魔族は殺しても、瘴気を吸って復活しますから。殺す時には細胞一つ残さないように業火で焼き払う必要があります」
「や、止めて! なんて事を言うの! そんな事を言ったら!」
エミリーは涙目で俺に向かって叫んでいた。
まあ、大した事をしていなければ穏便な措置になるだろうな。
そうでなければ。
俺の知った事では無い。
「じゃ、俺は他に囚われている人がいないかあちこち探して来ますので」
そう言ってその場を去ると。
「ギャアアアアア! 止めて! お願いだから止めて! ちょっと何人か食べたり、解体しただけなのにぃ!」
やっぱりな。
おそらく嬲り殺しになるんじゃないかな。
エルフの男達の怒気から察してはいたが、後ろからエミリーを殴る蹴るの音が聞こえて来た。
「レ、レオ様?」
「クロエ、お前は来い。直接地獄を見ていない者には辛い筈だ」
そう言ってその場を離れ、この一件は解決した。
こうして、俺達は無事帝都に到着し、王女アリスはその使命を終えた。同時に魔族が既に活動しており、俺が四天王ジョシュアを滅ぼしたことも……そして魔王復活が近いことも全て皇帝陛下に伝えた。
そして、帝都を離れ、俺の故郷の国、サンテマリノ王国へ向かった。
全ては俺の主、王女アリスのある意図の為にだ。
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