第39話支援職は最強の魔法を完成する

「ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!」


俺は上級の符術魔法のヒールを何度も重ねがけした。


符術の便利な点、一度の治癒では治らない重い怪我も何度も重ねがけすれば、上級魔法でも神級魔法なみの治癒魔法になる。


短剣で貫かれた傷はたちまち癒えた。


だが、こちらに有効な攻撃手段がなく、治癒の符が無くなれば俺の敗北は確定する。


このままでは負ける。何か、何か手はないのか?


俺は目まぐるしく考えた。俺の持っている符術、闘気を使った剣術、それらを使って、何か更に強力な攻撃手段はないか?


俺は朦朧とする意識の中で、世界図書館の中で読んだ一冊の本のことを思い出した。


それはこの世界の歴史、遥か遠い昔、魔法が存在しない時代があった。


人はこの世界の理を理解し、知恵をもって、この世界の覇者となった。


しかし、ある日、魔王が降臨した。そして、人類が何万年もかけて培った知恵の結晶、一つの都市を一瞬で消し去る爆弾、遠い空からラグナロック、神殺しとさえ名付けられた極超音速で地上に降り注ぐタングステンの槍すら魔王の前には無力だった。


魔王が地上で最強である理由。それは魔王がこの世界の理を変えて、魔法を登場させたからだ。


魔法はそれまでの人類の知恵を凌駕する魔法とその眷属である魔族、魔物を使役して、人類はたちまち滅ぼされようとしていた。


その時、天に天使が現れ、ラッパを吹き鳴らし、天界より天使の軍勢が現れた。


神による人類の知る、唯一のこの世界への介入。天使は果敢に魔族と戦い、その戦力を半減させた。しかし、天使を持ってしても、魔王はおろか、魔族四天王すら倒せなかった。


古代書には神のお告げが書かれていた。魔王は他の世界線の病んだ神が生み出してしまった異端者。そして、魔王は生みの親の神すら滅ぼし、ついに他の世界線にまで出現した……この世から生きとし生けるもの全てを抹殺するために……。


他の世界線の神は自ら生み出した命在るもの全てを抹殺することを本能に刷り込まれた存在を生み出してしまった。


そしてその世界線の全ての生きとし生けるもの全てを抹殺し終えた魔王……最後の生き残りである神をも殺し、同族である魔族や四天王も殺し、そして絶望した。


殺す生命がない。だが、魔王は魔法の研究により、ついに世界線すら跳躍することに成功した。


そして、現れたのが、この世界の魔王。神はこれに対して、天使の軍勢を派遣し、それだけではなく、魔王が構築した魔法の技術を人間にも利用できるようにした。


それが才能やスキルだ。そして、人間は魔法という新しい技術を手に入れ、そして知恵を絞り、天使との戦いで半分封印されている間に魔王や魔族と戦える力を手に入れた。


そして、のちに英雄と呼ばれるアレックスを中心に魔族四天王、魔王と戦い、遂に魔王を封印することに成功した。


それが1000年前に起きたことだった。


英雄アレックスは才能やスキルに頼らず、魔法の仕組みを分析し、その理を理解し。自身の知恵で、魔王の技術を再現した。


それを、創世魔法と名づけた。


神の恵と信じられていた魔法が魔王が生み出したものであり、それを分析し、解明し、創造する……創世魔法……魔王を倒すには魔王の生み出したものをもって。


勇者アレックスが残した魔王討伐のための人類の希望。


その、創世魔法の一つ銘は……。


『──創世魔法ヒューベリオン』


しかし、創世魔法はにわかにできるものではない。英雄アレックスは同時に20の魔法術式を展開できた。彼は符術士だったのだ。


現代の最強の符術士と言われた俺も12の魔術展開がやっとだ。創世魔法に挑戦するのは未だ早い。今、実践すれば脳のキャパシティをオーバーして脳が焼き切れて死ぬかもしれない。


それほど膨大で、暴力的な情報の渦。俺の脳で許容できるか?


「(……やるしかない)」


俺には時期相応なことは理解している。完全なものなどできる筈がない、なら、今できる最低レベルの創世魔法を構築すればいい。


俺は今できることだけを取捨選択して、もっとも簡単な創世魔法を考えた。


「(そう、仕事と同じだ……一から創造しようだなどと不遜なことを考えてはいけない)


師匠であるアレックスの教え。師匠であるアレックスも自身の師匠や先輩方の教えから学び、それを糧として剣聖にまで登りつめた。


ならば、俺がこれまで学んだ闘気、符術魔法を組み合わせて、最低限の組み合わせで魔法を創世する。


「(まず必要なのは、魔族の弱点である光属性での攻撃力)」


──であるならば、『光属性の攻撃の符の魔法陣』。


才能に恵まれた神級の光魔法の使い手は、ただ、何も考えないで魔法陣を構築する。


神が、何も考えなくても発動できるようにしてくれたのだ。


故に、彼らは、何故、その光攻撃魔法が発動するか何も知らない。


当然だろう、何も考えなくても発動できるのだから。


だが、俺は世界図書館で学んだ魔法陣の基礎、そして、彼らの呪文の意味を理解できる。


そう、神級の魔法は古代語で詠唱する。彼らはそこに何の意味があるのか全く理解できていない。だが、古代語のわかる俺には光魔法が何故発動するのか、そして魔術展開の意味がわかる。


光魔法の攻撃の基礎のみを選択し、強化する術は捨てる。それならできる筈。


「(だが、神級の基本だけの術式では大して火力は出ない。神級であるだけではダメなんだ。だから、光魔法を俺の得意の符術で強化する。魔力強化、そして投入する魔素の投入量の増加、そして世界図書館で得た誰も知らない魔法強化方法……それは光魔法と他の属性の魔法との融合。光魔法は闇魔法以外の属性の魔素を加えると、掛け算となり、威力は爆発的にあがる)」


──つまり、『光魔法以外の属性、火、水、凍、雷、土、風』。


「(だが、この膨大な魔力をどう収束させる? 異なる魔法を融合させても、一点にその魔法を融合する必要がある。その依り代は?)


──答えは、『俺の剣』。


光魔法と他の属性の掛け算で得られる魔法の依り代として、俺の剣を使う。


俺の普通の無銘の剣がそんな魔力に耐えられる筈がない。だが、俺には闘気がある。闘気で強化した剣に光と他の属性により数百倍にブーストされた魔力を剣に集約する。


つまり、俺は付与魔法で、剣に神級をしのぐ魔力を与える。


俺の闘気を武技言語で底上げして、剣に集約、当然、闘気強化のスキルに魔力強化、身体強化、筋肉強化、敏捷強化の符術を展開する。


同時に展開する符術は、実に11。それに魔法障壁、外皮強化、膨大な魔力に耐えるため、常時治癒の魔法も必要だ。合計14個の術式展開。


全くの0から考えた魔法の方が遥かに合理的だ。だが、今それを考えている余裕はない。


今、成功する可能性は遥かに高い。


人類で初めての魔法の創造。俺はそれをやるしかない。


神に与えられた魔法ではなく、人間が作り上げた魔法。それを俺はこれから組み立て行く。


「くっ!?」


俺は呪文を唱え始めた。符術士の俺が初めて魔法詠唱する。最初は一つ、そして二つ、三つと次々と魔法陣が構築されていく。当然、凄まじい頭痛と神経を使う作業だ。


流れ込んでくる情報の洪水は急激に増加、それどころとどまることを知らない。


気が狂いそうな激痛。一瞬でも気を抜けば、魔力の奔流は自身を襲い、俺の身体は消し飛ぶだろう。


しかし。


「──完成した」


俺は膨大な情報と史上初めての創世魔法を完成させ、ようやく我に返った。


膨大な時間が経過したような気がする。しかし、実際は僅か数秒間の出来事。


そして、俺の剣は光輝き、聖剣のようなまばゆい光を放っていた。


人類最強の創世魔法、そして人類が創造した初めての魔法


銘を「創世魔法──『ヒューベリオン』としよう」


俺が創った、俺の魔法。


これで魔族四天王は倒せる筈。これで倒せなくては、俺に勝つ手段はない。


俺は、聖剣『ティルトウェイト』を手に、魔族四天王に斬りかかっていた。

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