第30話レオ、幼馴染を助ける2

「大丈夫か? シエナさん?」


「レ、レオ君?」


「良かった。ギリギリ間に合った」


「ど、どうして私なんかを? わ、私、あなたを足げにしたような女よ?」


「同じ立場なら俺もそうしていた。君に罪はないよ」


「……レ、レオ君」


シエナさんが俺の腕の中で潤んだ目で俺を見てくる。シエナさんって、俺の好みなんだよな。これを機会にお近づきになりたい。俺って女っ気全然ないし。


そんないい雰囲気が漂っている時にお邪魔虫が口を挟んで来た。


「一体何なんなの君? 何を勝手にいい感じの空気を漂わせてるの? 僕は無視されるのも人間同士の恋愛なんて興味ないんだよ!」


ああああ! うざっ!!


「いいところを邪魔しないでくれないかな? お前、空気読めないタイプだろ!」


「な、なんだって? く、空気読めない。何でそれを? 僕の悩みは人間にもわかるのか!」


ほんとに空気読めないヤツだった。魔族がそんなこと気にする必要ないのに……こいつ馬鹿だな。


「よくも僕を侮辱してくれたね。いいよ。君はそこの人間の女が好きなのですね。ならばあなたの目の前でその女を喰らってあげる。さぞかしいい声で鳴いてくれると思うよ。僕は人間から恐怖の悲鳴を上げさせるのが得意なんだ。それに、その女、肉付きも良くて柔らかそう。その上、この魔力。極上の食事が楽しめそうだよ。でも、極上の食事にはやっぱり人間の恐怖に引き攣る顔と悲鳴が必要なんだ。それがないと味が落ちるんだよね」


「……よく喋るヤツだな」


ほんと、何なんだ? こいつ漆黒でデカい身体のくせに自分のこと僕と言う上、何故か可愛い口調だが、言っていることは吐き気が催すようなことばかりだ。


「まあ、正常に僕の言うことが聞いていられるうちが花だよ。さあ、まずはあなたの首をもいで、すぐに死なないように治癒の魔法をかけた上で、その女を食べてあげる。ああ、もう、美味そーーーー! ジュルリ! へ?」


俺はクソ鬱陶しいこの漆黒の魔族がデカい口から不快な真っ黒な舌で舌なめずりをした途端風の上級攻撃符術の符を切った。


「い、痛ぇえええええ!! てめえ! お、俺のぐちがぁ!!」


「どうやらそれがお前の本性らしいな。さあ、これからパーティータイムだ!」


「ふ、ふざけやがってぇ!!」


メンドクサイが、この不快な魔族はかなりの実力だろう。先日の魔族は油断したところを殺れ……たが。


『……遅い』


……そして。


『これは……ステルス魔法か?……だが、遅い』


俺は探知の魔法で魔族の周りに魔力の奔流が渦巻くのを感じ取った。


しかし、魔族の周囲には当然あるはずの魔法陣が浮かんでいない。


ステルス魔法。それは古代書に記されていた古代の魔法技術。普通、魔法を唱えると魔法陣が浮かび上がる、その魔法陣によってどんな魔法かも見極めることができる。


しかし、太古にこの魔法陣を見えなくする技術が開発され、研鑽された。


魔法陣を収納魔法に封じ、他者からは見えなくする。しかも、漏れでる魔力の魔素の量は微弱だ。高レベルの探知魔法でないと探知できない。


襲われている馬車へ近づく途中で、何人もの冒険者が殺されていくのがわかった。彼らとて高レベルの冒険者。いくら魔族にとはいえ、むざむざ瞬殺されるのも普通ならおかしい。


だが。


この魔族は失われた技術、ステルス魔法の技術で術式展開を隠し、奇襲攻撃的に冒険者達を屠っていたのだ。


しかし、古代書にはステルス魔法の欠点も書かれていた。それは術式展開が遅くなってしまう


ということ。つまり、魔法発動を隠ぺいすることに特化したステルス魔法は術の発動に時間がかかる。実際、さっきから、かなりの大技の魔法術式を魔族が展開しているが、その展開は遅い。その為か?


「うわあ、こいつ、本気で僕と戦うつもりだよぉ! 本当にこんな馬鹿がいるなんてぇ! 人を助けようなんて考えている場合じゃないだろ? なんで人間って、こんなに馬鹿なのぉ?」


俺をふざけた口調であざける魔族……だがこいつの真の目的は俺を挑発することじゃない、魔法の術式展開が遅いのをカモフラージュするために時間稼ぎをしているんだ。


こいつに勝つのは容易に思えた。おそらくこいつの魔力は大したことはない。シエナを助けた時も、前回の魔族より遥かに動きが遅かったからできた。つまり、こいつはステルス魔法に頼りきった、かなり弱い部類に入る魔族だ。


……それにしても。惨い……生きたまま食われた女性の冒険者!


こいつをただで済ます訳にはいかない!


「ほんと、ふふっ、昨日の冒険者達もちょっと手足を切断してあげたら、『助けてくれー!』 とか、『死にたくない!』とか、おしっこ漏らしなが言うんだよ! いやーホント楽しかったぁ!」


「お前……死んだ人まで凌辱するのか? 戦った相手への敬意はないのか?」


「はぁ? 敬意? お前は遊びで虫を殺す時に虫に敬意なんて払う? 僕にはわかんないなぁ」


遊び……だと? 人を殺しておいて、喰らっておいて、遊びだと? 人を嘲笑い、嘲笑するのは魔族の特徴! だが、この魔族は良くしゃべるし、不快極まる!


「お前は……ゆ、許さない!」


「はぁ? 一体どうやって? お前はもうすぐ、へ? あれ?」


俺は闘気強化のスキルで高速で魔族に近づいた。


俺は冒険者の女性がされたように魔族の頭を髪で持ち上げていた。


魔族の目は例の女冒険者のように違和感を感じた下半身を向いた。


当然だろう、大男のこの魔族に普通の体型の俺に髪を掴まれて目線が同じとかおかしい。


「そ、そんな馬鹿なぁ!!!」


そして。


「俺、俺の身体がぁ!」


魔族の身体は首と切断されて、倒れて行った。


ブシュ―!!

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