第29話レオ、幼馴染を助ける1

「ようやく商人の護衛の仕事が受けることができたぞ」


「迷惑かけてすまない、アリス。俺を買ったばかりに。それにクロエの里を助けに行くのが遅くなってしまったからな、クロエにもお詫びをしなきゃ」


「何を言ってるのね。僕の里を助けてくれるだけで十分なのね。それに約束は1ヶ月以内だけど、まだ1週間しか経っていないのね。里はレオ様のおかげで助かります!」


俺はようやくC級冒険者になれた。俺が最低ランクのFクラスだったばかりに護衛の仕事が受けられず、ダンジョンの街から旅をすることができなかった。それがようやく特別試験でCランクになれて、俺たちは商人の商隊の護衛の仕事を受けて帝都方面に向かっていた。


クロエの里は次の街から歩いて1日の距離だ。幸い商隊は次の街で補給と休息の為に3日ほど留まる。その3日間でクロエの里を襲っている賊を倒す必要がある。


そんな形で商隊の護衛についていると。


「うん? この瘴気?」


「どうしたの? レオ? 突然瘴気だなんて物騒だぞ?」


「そうなのね。僕もびっくりしたのね」


「レオ君、そんなにピリピリしてちゃだめだと思うよ」


いや、氷の受付嬢と言われてシャーロットさんがそれ言うかな? と言うか、なんで受付嬢のシャーロットさんがこの馬車で一緒に移動してるのかな?


「あの、シャーロットさんには突っ込みたい衝動がありますけど、今はどうも前方の商隊が襲われているようなので、失礼します」


「え? 私に突っ込みたい? それって? 二人の距離が縮まって、最後の一線を越えて距離が0どころかマイナスに? つまり私の中に突っ込みたいって? あわわわわっ! そんな、まだ早過ぎます。まだキスもしてないのに、そんな! それもいきなり突っ込みたいなんて! はあはあ、でもレオ君が望むなら……私。ああ、仕方ないです。何処でも好きなところに突っ込んで! 私達は夫婦ですもの!」


スパーン!


「それは私が言いそうなことでしょ? シャーロットさん?」


なんか、シャーロットさんがアリスにハリセンでしばかれているが、俺にはシャーロットさんの言っていることが良く聞き取れなかった。何せ、俺の探知の符術で前方の商隊と思しき一群に襲いかかっているヤツがいる。この感じ。この間の魔族の時とそっくりだ。


俺は馬車を降りると身体強化、敏捷強化、加速、隠蔽の符を切り、スキル闘気強化を発動する。おかげで馬より早い速度で街道を走り抜けることができる。


☆☆☆


シエナSide


奴隷商から出荷された私は牢になった馬車に載せられて帝都まで移送されていた。私を購入したのはアストレイ侯爵という貴族らしい。


……貴族。少し身震いする。気に入らなければ殺されるかもしれない。中には剣の試し斬りや魔法の威力を確かめるために奴隷が的にされる場合がある。奴隷は一人で平民の年収分の価格にもなる。普通は簡単に殺したりしない。冒険者なども貴重な財産を簡単に死なせたりしない。もちろん、ダンジョンで誰かが犠牲になればパーティが生き残れるという状況だと誰が犠牲にされるかは言うまでもない。だが、貴族より冒険者の方が扱いがいいと聞いている。貴族にとって平民の年収の数年分。平民の家が一軒買える位の金は大した金額ではない。


故に気分が悪いと殺されることもあるし、剣の試し斬りに使われることもある。


私は少し覚悟を決めた。


その時。


ズガーン!


商隊の馬車の先頭の方から爆発音がした。


『何事? 盗賊か?』


思わず腰の剣に手をやろうとするが、売られていく奴隷に帯剣が許される筈がない。


私にはまだ隷属の魔法がかけられていない。勇者アーサーの隷属の魔法は解かれたが、奴隷商の所有物。そして隷属の魔法は施されていないのだ。


ズガーン!!


更に攻撃が続き、ついに私の乗っている馬車にも魔法が着弾した。


☆☆☆


私達奴隷の周りに護衛の冒険者達が集まって来る。この商隊の主な商品は奴隷である私達だからだ。


「奴隷達を守れ! 商人さん達は早く奴隷達の更に後ろへ逃げてくだせぇ!」


「た、頼む! もしかしたら最近この辺を荒らしている人攫いかもしれん!」


どうやら商隊を襲うだなどという命知らずは最近有名なあの人攫いか?


つい最近冒険者によって討伐されたと聞いていたのに?


「うぎゃあああああああ!」


「あ、あふ! ほげッ!!」


「止めて、止めて、やッ!」


「ノエル! に、逃げろ!」


次々と悲鳴が上がり、冒険者達が殺されて行く、そして。


「君、美味そうだね?」


そう言うと、最後の生き残りで唯一の女性冒険者の髪を掴んで持ち上げた。異形の……魔物? いや違う、魔物が喋る訳がない……しかし、人間であるはずもない漆黒の異形。


「た、助けて! こ、殺さないで!」


「そうは困るよ。こんなに美味そうな上、君の魔力量では素材としての価値が……僕に食べられる以外の使い道……ないじゃないの?」


「た、食べる? そ、そんな! お願いします! 助けてください! 何でもします!」


「は? 何を言ってるの? だって、君はもう」


「え?」


冒険者の女性が疑問符を浮かべる。当然だろう。だが、私達には異形の者の言っている意味がわかった、何故なら。


「ほんと、君達人間ってほんと個性がないね。出てくるのはいつも同じ言葉だね」


冒険者の女性の目が動き自身の身体の下の方を見る。そこには……身体はなかった。


首だけが異形の者にぶら下げられていて……。


ブシャーーーー


激しい血飛沫が上がる音と共にドサりと胴体が倒れる音が聞こえる。


「な、何で?」


「何で死なないのか? でしょ? 痛覚麻痺と軽いヒールの魔法をかけているからだよ。安心して。時間稼ぎにしかならないから、君は必ず死ぬからね、ククッ」


「い、嫌ぁああああ!」


血が滴る女性の首を持って、異形の者は私達の方を見る。


目線が会うと、皆、動けなかった。この異形の者から逃げろと本能が告げていたが、足がすくんで動かない。


「何でわざわざこんなことをするのか教えてあげるね。僕ね。生きたまま人を喰らうのが大好きなんだ。中でも女の脳みそを生きながら食べるのが大好物でね。知ってる? 人間の頭ってね、こうやって頭を蟹の甲羅を割る要領でやると簡単に頭蓋骨が取れるんだ」


メキメキメキメキ、カパ


嫌な音と共に女性の頭は割られた。


「い、嫌ぁああああああああ!」


「ヒヒヒ、いい声で泣くね、君。さあ、じゃ、いただきまーす」


バリバリバリ、グチャ、クチャクチャ。


耳障りな音と共に女冒険者の脳みそは食われて行った。


「あ、ぐ、ああ、もう、殺してぇ!」


「だから、君はもう死んでいるんだよ、ふふふ」


シエナはその圧倒的なオーラを放つ異形の者を前にただ足がすくみ、膝は震えていた。


『人間が勝てるようなヤツじゃない』


それは長年ダンジョンを潜っていた冒険者としてのシエナの本能が告げていた。 


だが、殺された冒険者の落とした剣を拾うと、すくむ足を自制して、何とか剣を異形の者に向けるのだった。


このままでは間違いなく殺される。だけど、少しでも足どめできれば、もしかしたら何人かは助かるかも。


そして、女冒険者の脳みそを食い尽くした異形の者は雑に彼女の頭部を投げ捨てるとシエナを見て言った。


「あら、残念だね。僕好みの性格をしている上、こんなに美味しそうなのに、この魔力、最高の素材だね。どうしようかな? こんないい素材、持ち帰るべきだけど……でもやっぱり食べよう。僕、本能には忠実なんだ」


そう言って、異形の者はヨダレを垂らしながらシエナを見据えた。


次の瞬間漆黒の魔物は私に向かって瞬間移動したとしか思えないスピードで接近していた。


何か圧を感じた。他の冒険者やさっきの女冒険者のように突然身体を切断される? そう思った時!


「何だと?」


「え?」


「大丈夫か? シエナ?」


殺られそうな一瞬を抱き上げて瞬間移動したとしか思えない速度で私を助けてくれたのは……レオ君だった。

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