第7話支援職は氷の受付嬢にお誘いをうける

「あいつ勇者パーティを追放されたってよ」


「さすがハズレスキル、肉壁にもなれず、手形代わりに売られたってよ」


「ギャハハッ! 何それ、ウケるんだけど!」


チキショウ。俺は冒険者ギルドでバカにされて、屈辱に耐えていた。俺だって頑張っていたのに……それなのに。


「レオ、気にすることないぞ」


「……ああ」


力なく返事をする俺の手を無理やり引っ張るアリス。


「え?」


「何? レオ?」


いやいやいや。当たってるよな? 胸?


アリスは俺の手に腕を絡ませてグイグイと俺に寄って来た。そして胸を……胸をグイグイ押し付けてきた。絶対わざとだよな? いや、王女様がそんなことしたらダメだよな?


「な、なんであのハズレスキルがあんな可愛い子と!」


「おい、なんか胸当たってないか、あれ?」


「……う、うらやましい」


アリスは俺を馬鹿にした冒険者達にベェーとアカンベェするとそのまま受付に進んで行った。


アリスは俺の為に……俺は優しいご主人様に感謝したけど……胸を当てるのは反則だと思う。でも、後でお礼を言っておこう、気持ちは凄く嬉しかった。


「レオ、まずはダンジョンでレオの冒険者ランクをCに上げて街道沿いの護衛の仕事を受けられるようにするぞ」


「ああ、俺はFランクからのスタートだからな、わかってる。街道沿いの護衛の任務をしながらだと路銀の節約になるな」


「ごめんね。お金がなくて」


「いや、俺を買ったからだろ。さすがにわかるよ。俺の方こそごめん」


「ううん、気にしないで。だから受付の仕事はお願いするぞ。私、苦手なのあの子」


「え?」


何のことかよく分からず受付を見ると俺は固まってしまった。


受付には受付嬢がいた。当たり前だろ? 皆そう思ったと思う。だけど問題は空いている受付嬢が一人しかいないことだった。


「レオ、お願い」


アリスが俺の後ろに隠れてしまった。理由はわかる。何故なら受付には冷たい眼差しの通称『氷の受付嬢』だけがただ一人いたからだ。


彼女は凛とした美貌と氷のように冷たい風貌。いつも冷たい声で笑っているところは見たことはない。俺も苦手だったけど、何度か仕事の依頼を担当してもらった。この国の言葉わかるの俺だけだったから当然なんだけど……でも怖い。冷たい眼差しでS的な言葉が出るのは間違いない。きっと冷たく馬鹿にされるんだ。


だが俺は勇気を振り絞って氷の受付嬢に声をかけた。


「あの。ダンジョンで素材を採集する仕事を斡旋して欲しいのですが?」


「素材ですね……レオ君、ところで勇者パーティから……?」


「あ、はい。さっき追放されました」


ああ、さぞかし冷たいドSな言葉がこの人から出るのだろうと思っていたら。


ガシッ


何故か氷の受付嬢は俺の手をギュっと掴んで俺の顔を見ていた。心なしか頬が赤いような気がする。女の人の掌って柔らかいだなーていう気持ちと暖かいんだなーという気持ち。


え? この人氷の受付嬢だよな? 冒険者をいつも冷たい目で見ている、あれ?


「気を落とさないでくださいね。レオ君はいつも一生懸命やってました。レオ君は翻訳や収納のスキルで貢献して、それだけじゃなく色々な交渉や雑用を一人で全部引き受けて……献身的なレオ君は素敵でしたよ。私だけは健気なレオ君の味方ですよ」


「え?」


まさかの励ましの言葉に驚く俺。


「ところで……魔法戦士のシエナさんとは何でもなかった……という理解でいいですよね?」


「はい?」


突然顔を真っ赤にして、この人一体何を言い出すの?


「シエナさんとは恋人同士じゃないんですよね?」


「えっと……別にそういう関係では「良かった! 今日夕食をご一緒しましょう!」


は? え? 一緒に夕食? いや、この人はその美貌からよく冒険者から誘われたりしてたけど一度もそんな誘いに乗ったことないのに、むしろ自分から?


「えっと、これから冒険者としてやっていくことの相談にのってくれるんですよね?」


「はい。もちろんです。あくまで受付嬢の職務の一環です。ですので気にしないでください。その……職務なので、やましいところは1mmもありません、ハアハア」


職務なのか。そうだよな。こんな美人が俺なんかの為にプライベートの時間を割いてくれる訳がないよな。この人は冷たく見えるけど仕事熱心な人なんだ。俺は熱心な氷の受付嬢に感謝した。


俺が追放されたことにも配慮しているのかもな、そうだよな。突然環境が変わったんだからプロなら当然だよな。


「ありがとうございます。えと?」


「シャーロットです!」


何故か俺の方を上目遣いに見ながら握った手に力を入れるシャーロットさん。


「じゃ、シャーロットさん。俺、早くCランクを目指したいので効率の良いダンジョンの素材集めの依頼を教えて下さい」


「わかりました。今なら東の泉のダンジョンにスケルトンが住み着いていて一番冒険者ランクの評価が良くなります。一方、西の森のダンジョンにはロイヤルオークが住みついて、そのお肉と魔石の報酬が一番良くて、ランクの評価もかなりいいです」


「今はランクを上げを優先したいので、東の泉のスケルトン討伐でお願いします」


「承知しました。では、こちらにサインを」


そう言って契約書を出されてそれにサインする。一通り手続きを済ませると。


「じゃあ、今日の夜、7時にレストラン『銀のさら』の前で待ってますよ」


「はい。よろしくお願いします」


そう言って俺は受付を去った。


「言っちゃったぁ、言っちゃったぁ~、とうとう 言っちゃったよ~私の本音を言っちゃったよぉ! 私可愛げがないから人気ないのに私のばかぁ! でも優しいレオ君は私に恥をかかせたくないから、ぐすん。でも、やったー! レオ君とのデート取り付けたよ~!」


「ちょっとシャーロット、なに柄にもなくガッツポーズなんてしてるの?」


「きゃー悔しい! 私もレオさんを食事に誘おうと思ってたのにぃ~」


「いや、明日は私がレオさんとデートするのよぉ~!」


何かおかしな声が聞こえるが気のせいだろう。俺は急いでアリスの元へ戻った。


「アリス、良い依頼を受けられたよ!」


「レ、レオぉー!」


「え? 何?」


ボクッ!


俺は何故かアリスに殴られた。なんで?

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