支援職、最強になる~パーティを追放された俺、微妙なハズレスキルと異世界図書館を組み合わせたらえらいことになった。は? 今更戻って来い? 何言ってんだこいつ?~

島風

第1話支援職追放される

「レオ! お前をパーティから追放させてもらう! お前は、貧弱な支援魔法しかできず、俺達の足を引っ張ってパーティを危険に晒した! その上怠慢の数々目に余る! お前は俺達勇者パーティにふさわしくない! お前は今すぐ追放だ!」


「そ、そんな! 俺は俺なりに一生懸命やっていたではないですか? それに俺が貧弱な符術しか使えないことは承知でパーティに入れてくれたのではないですか?」


俺に追放を言い渡した勇者アーサーは女剣聖のエミリア、女魔導士のルビーを周りに侍らせながら嗜虐的な笑みを浮かべていた。当然他の二人も俺を汚物を見るような目で見ていた。


だが、俺は自分の役割はちゃんと果たしていたし、今日だって勇者アーサーのピンチを命がけで助けた。褒められこそすれ、断罪されるなんて思っていなかった。


「今日だってちゃんと勇者様を助けたではないですか?」


「はっ? 俺を助けた? 奴隷のお前が俺の為に命を捨てるのは当たり前だろ?」


「あんたなんてお荷物なのよ。それに肉壁になるなんて当たり前でしょ、奴隷なんだから。それにいつも私のことジロジロ見て気持ち悪い。君、一体何考えてたの?」


勇者に胸を押し付けながら俺を睨む剣聖エミリア。彼女を見ていたのは支援魔法のタイミングを計っていたからだ。前衛のタンク役の彼女は一番重要なポジションだ。だから、防御や回復が一瞬でも遅れたら今頃彼女は……それなのに?


「あんた馬鹿ぁ? いざという時に捨て駒になるのが奴隷でしょ? それにあんたの符術が貧弱なせいでピンチになったんじゃん。自分がピンチを招いたって自覚ないの?」


剣聖と同様勇者に胸を押し付けている魔導士ルビーも後衛を直接狙って来る狡猾な魔物から何度も助けた、なのに?


いや、弁解しても無駄だ。俺は本当の理由がわかっていた。この人達はお金に困っているんだ。今日だって無理な行軍して強力な魔物を倒して高く売れる素材を手に入れようとして逆にピンチに陥った。俺は沈黙した。


もう一人仲間がいる。魔法剣士のシエナ、だが彼女は少し離れたところで下を見て沈黙していた。


「なあ、シエナ、お前はどう思うんだ?」


「わ、私は……その……レオ君は……頑張っ「ああッ!!」


突然声を荒げてシエナの言葉を遮る勇者。彼女は俺のことを! 俺は彼女に感謝した。例え決定に変わりがないとしても、俺のこれまでを否定しないでいてくれることが嬉しかった。


しかし、勇者から出たのは俺達奴隷にとってゾッとする呪いの言葉だった。


「なあ、シエナ。お前はあの有名な女奴隷のようになりたいのか?」


「!!」


「なりたいのか?」


ブルブルと震えるシエナ。彼女が真っ青な顔で震えるのは当然だ。あの呪いの言葉を言われたらどんな奴隷でも顔色が悪くなる。彼女は俺と同じ奴隷だからだ。


あれは俺がまだ子供の頃のことだ。王宮に敵国の賊が入った。その時にたまたま出くわした女奴隷が首元に短刀を突き付けられ、口を布で封じられた。幸い開放されて命に別状はなかった。……だが、王宮の書庫から重要な書類が盗まれたことが発覚したことで王が怒り、その女奴隷は公開処刑にされた。首を1週間も晒されて俺達奴隷は心底恐怖した。


書類の盗難は貴族の騎士が居眠りをしていたのが一番の理由だった。だが、国王は貴族を罰する訳にもいかず、怒りのやり場をその女奴隷に向けた。この事は、王族や貴族の機嫌が悪いというだけで、難癖つけられて死刑にすらなると言うことだ。


「レ、レオ君はいらない……子だと思います」


「だよな?」


勇者や二人の女はゲラゲラと笑った。俺をバカにして、同時にシエナをも馬鹿にしているんだ。シエナは顔を羞恥のピンクに染めてスカートの裾をギュっと握りしめている。


「じゃあ、そういう訳だからお前を奴隷商に売る。奴隷だからな、お前」


「そうね。お金無いもんね」


「おい、おい、ほんとのこと言うなよ」


「ごめん、ごめん、そうだった、私ってば、ついうっかり、てへ」


悪びれもせず勇者アーサーと剣聖エミリアは本当のことを言った。ああ、わかっていたよ。だから俺やみんなを連れて奴隷商に来たんだろう? 正直全てわかっていた。でも、今の俺は前とは違うのに。それをわかってもらうことが叶う筈もなく為す術がないことが口惜しい。


せめてもの抵抗をする。もう一度ダンジョンに潜れば考え直してくれる筈。その自信はあった。


確かに俺は奴隷だし、ハズレスキルの符術士だ。でも、収納(小)や翻訳(小)のスキルを買われて勇者パーティに入った。俺を選んだのは他でもないこの勇者アーサーだった。


「俺を選んだのはアーサー様ですよね? 俺はちゃんと自分の責務を果たしたのに……なのになんで?」


「そんなの察しろよ。最初から捨て駒だからだろ。これだから頭の悪いヤツは嫌いなんだ」


ああ、やっぱり俺はこれから奴隷商に売られるんだ。


「やっぱり止めませんか? 勇者様」


「まだ、未練があるようだな。シエナ、こいつのこと好きだったか? 同じ奴隷だし。だがそういう中途半端な気持ちでいられると不快だぞ。……よし、お前に」


俺を庇う言葉を発したシエナに勇者は怒ったのか、俺は首根っこを掴まれてずるずると引きずられて奴隷商の牢獄の縦穴の真ん前に立たされた。


「シエナ、こいつをこの竪穴へ蹴り落とせ」


「そ、そんな! 酷ぎます!」


「安心しろ。別にここから落ちようと死ぬどころか大した怪我すらしない。さぁ、早くやれ」


「シ……シエナ……」


勇者の所業に腸が煮えくり返るが俺達奴隷はただ耐え忍ぶしかない。でも、ついシエナの名前を呼んでしまった。同じ奴隷同志だから他のメンバーより親しみを感じていた。


「いつも、いつも助けてくれたのに……私……知ってる、自分を犠牲にして何度も私のこと助けてくれたこと。レオ君は……私の恩人」


シエナは俺への感謝の言葉を口にしてくれた。正直マズイと思った。このままじゃシエナまで……。


「あの女奴隷のようになりたいのか?」


ああ、勇者様がこの国の王子でなければ……シエナはしばらく沈黙したが、明らかに動揺して羞恥心、正義感そして恐怖とで思考が追い付かない様子だ。


「……いいよシエナ。気にすんな」


「さあやれシエナ!」


「ごめんなさい!」


どんっ、と背中に伝わった重みと痛みは……俺とシエナの悲しみを背負っているかの様に感じた。反射的に右手を差し出して上を見上げたけど、目に映ったのは俺をあざ笑う勇者アーサー、剣聖エミリア、魔導士ルビーの歪んだ笑い顔、そしてシエナの泣き崩れた顔だった。


シエナの泣き顔に俺の心は深い闇に落ちた。


周りの景色すら自分をあざ笑っているようにすら思えた瞬間、俺はドンッという音を立てて冷たい牢獄の床に叩きつけられた。

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