第6話


「龍街(リュウマチ)第六話」



          堀川士朗



トッツィーと二人、手を繋いで地元の街を歩いていた。

オクナカコーポレーションアーミーの隊員が街に何人か立っていた。

5才くらいのこどもがそれを見て、


「カッコいい!」


と興奮していた。

でも龍の襲撃も恐らく近くまたあるのだろう。

彼らが街を巡回してるのはそういう理由だからだ。

こどもはよく、消防車を見て目を輝かせるが、でもそれって近くに火事が、燃えてる家が存在するって事だろう?

それと同じ事さ、坊や。


今日は日曜日だ。

いつも行く喫茶店『モゾビー』に二人で行って、店長おすすめのビーフサンドイッチを食べてお茶をする。

美味い。

サンドイッチのビーフには隠し味にナッツの砕いたのが入っている。もぐもぐ。

ここのサンドイッチはパンから自家製で焼いていて、ビーフも直火焼きで味を主張していてバランスが良くて美味しい。

コーヒーには砂糖を入れなかった。味の邪魔をしたくない。

苦みの中に自らを追いやると、いっそ世の中がクリアに感じられるような気がした。

俺は席を立って喫煙免許証を読み取り機に提示した。アクリル張りの自動ドアが開いて喫煙スペースでタバコを吸う。

吸ゥ……マリマリマリ……ポカーゾ。

紫煙をくゆらす。

トッツィーが紅茶を飲んでいるのが見える。

彼女は俺の親戚筋に当たる幼なじみだ。

小さな頃から「兄ちゃん、セン兄ちゃん」と俺の後をついて回り、慕ってくれてかわいかった。やがて付き合う事になった俺たち。

必然的だったかもしれない。

今の日本の世間の若い連中は俺たちみたいな純愛なカップルが多くて、かつてのような『不倫は文化だー』とか言ってフリーセクササイズを楽しんでいたくだらない性病老害ジジイどもは『老人廃棄法』により全て滅んだ。

とても良い事だと思う。

世界が健全化されているんだからな。


ふと、トッツィーと結婚しようかな、となんかその時そう思った。

煙が換気扇に消えていく。

喫煙スペースにいられる時間は五分間だけだ。



日本国内だけでもこの数年間で計100万人が龍によって食われて死んでいた。

山に運ばれる『お供え』と呼ばれているエサ用の廃棄老人を含めたら多分600万人は超えてるんじゃないかな、あいつらは人間じゃないけど。年老いたヨボヨボの家畜か。

かくして自衛隊の出番、法律をいじくったから実質的な国軍としての自衛隊の面目躍如となるはずだったが正直手を焼いている。

そこでオクナカコーポレーションアーミーの活躍が期待された。

世界有数のコングロマリット企業、億中コーポレーションの会長、億中要蔵氏が私費を投じて国内外を問わず世界中のエリートを集めた最強傭兵集団である。

死人が出るほどのハードな訓練、武器はコーポレーションが開発したものを使用したり、世界の先端的な兵器市場で最新のものを買い付けてくるので、はっきり言って自衛隊よりも装備と実力は格段に良い。

オクナカコーポレーションアーミーは龍の住みかを各個撃破し、着実に戦果を挙げていた。



朝。

ウンバボに襲われてホモ的な貞操を奪われる夢を見て、うわぁぁぁぁってなった。

抵抗しようにも、あの馬鹿力でどうにもならなかったのだ。

夢で良かった。


回収を終えた午後。寒い。

俺たちは完全自動運転の電動軽トラ、五六八号に乗っている。

荷台には今日の獲物、ロールテレビ二台と洗濯機と小型ピアノと冷蔵庫。

運転席のウンバボは疲れて寝ている。

こいつ今どんな夢を見ているのかな。まさか俺を襲っている夢じゃないだろうな。


交差点は渋滞している。

黒い影が空に無数にある。

刻一刻と近づいてくる。

ヤバい。

西の空から飛来してきた10匹の龍に囲まれた。

ノーマルタイプだ。


「おい、起きろウンバボ」


ウンバボが起きた。


「どしたノ?チカセン社長」

「龍だよ」


窓を半分だけ開けた。

車から降りて逃げ惑う人々の何人かは龍にあっという間に捕食されていた。

咀嚼して胃液で溶かしては、服のみを吐き出す群れたち。

レーダーに捕捉されなかった群れのようで、近くには自衛隊も展開していず、無人戦闘車『甲虫』の格納庫施設も見当たらない。

民間人の俺たちだけで何とかしないといけない。

俺とウンバボは車に乗ったままで、五六八号に積んである改造銃MP12で応戦する。

銃器の限界までガス圧を高めてある。

慌てているのでカートリッジ交換が上手くいかない。

一斉射!

パラパラパラパラパラパラ!

頭を狙う。

しかし9ミリパラベラムの弾丸では龍の硬い皮膜は破れない。

ある程度ノッキングを起こさせているだけにとどまっていて、突進は避けられない。

至近距離に龍がやってくる!

龍の「キョエエエエ!」というすさまじい鳴き声がすぐ近くまで聞こえてきた。

万事休すか!


「ウンバボ。俺ら死ぬなあ」

「ん?なに?」

「今までありがとう。楽しかったぜ色々」

「まだ終わってないヨー」


ウンバボは慌てていなかった。妙に落ち着いている。

するとそこへ三人の黒いスーツを着た屈強な黒人がどこからともなく走って現れて、超大型のショットガンで慣れた手つきで龍を次々倒していった。

彼らの動きは、人間離れしていた。

非常に訓練が行き届いていた。

全ての龍が倒された。

ウンバボはその三人に、


「ありがとう。タムタム、フムフム、ヘムヘム。もう大丈夫だと思うから帰って良いヨ」


と言った。

三人、タムタムとフムフムとヘムヘムはウンバボに最敬礼して風のように消えていった。


「ウ、ウンバボ……お前も億中要蔵さんみたく私設軍隊を持っていたのか?」

「ああ、あれは僕のSPだヨ。24時間見守りハッピネス」

「ウンバボ……お前一体何者?」

「僕の名前はウンバボ・チャーリー・インバベ8世。実は僕は中央アフリカにあるインバベ王国の第一王子なんダ。父に言われてネ、将来王様になるための人生経験のためにニホンで勉強中だヨ」

「知らなかったよウンバボ…」

「エヘン」

「お前日本来てヲヴァンヨガリヲルの風波レイナにハマってちゃ駄目じゃないか」

「ウフフ。それは大目に見てネ」



今日も俺は、死ぬ事なく渋谷(ジュータニ)区、宇田川(アザナデンセン)町のガレージハウスに帰れた。

生体口座ウェンタラスでウンバボに日当を支払う時に、俺は五回耳をクリックして、ウンバボの時給を500円アップしてあげた。


王子様だからな。



            続く


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