第5話
「龍街(リュウマチ)第五話」
堀川士朗
大まかに分けて龍には四種類のタイプが存在する。
『ノーマルタイプの龍』。
一番数が多い。色は緑色。4~7メートル級。素早い動きと飛翔能力で人間を襲う。
『チャイルド龍』。
体長1.5メートルくらい。色は黄色。文字通りこどもの龍。数回の脱皮を経て大人になる。一生をこどもの状態のまま過ごす希少種もいて、万年幼生種と呼ばれている。
軍などはこいつらを龍の巣からさらってきてノーマルタイプの囮に使用する。
『ヒューマン龍』。
人間型の龍。2.5メートル級。こいつらが厄介だ。鱗を保護色で頭髪や肌の色や洋服の生地の風合いに変化させ、人間に近寄る。あ、実は龍だと思った時はもう遅い。
捕食されている。
いわばこいつらは龍側の人間に対する工作員だ。
『巨龍』。
45メートル級。色は紫色。全てが規格外。飛翔能力もあり、ビルなども破壊して中にいる人間を食べる。滅多に現れない龍の中の王。こいつは群れを作らない。
今日も奴らは世界中を襲っている。
話を変えよう。
数年前にこの国で採択された高齢者優性施策推進法、通称『老人廃棄法』により、基本的人権を失った75歳以上の老人たちは男女問わず年金を打ち切られ、全財産を没収され、国営の工場で二畳の部屋に三人詰め込まれて賞味期限が切れたパンとお茶だけ与えられて風呂も入らず死ぬまで無給労働を課せられる事になった。
また龍のエサとして用いられる事もあった。
こどもの龍は貴重品なので、いくらでもいる老人たちが代わりのスケープゴートなのだ。
老人たちは廃棄品だ。
政府はその廃棄品を回収する業者だ。
まぁ、うちの会社の斡旋ブルと同業者か。
日本の人口は6000万人にまで減ったが(廃棄老人は人口にカウントされない)、やる気と活力溢れる若者主体の国家になり、GDPもV字回復した。G7会議でも意見を求められる事が多くなった。国家運営の秘訣を聞かれているのだ。
出生率も段違いに上がった!
やっぱり出生率や若い夫婦が赤ちゃんを育てる環境を妨げていたのは、年金でぬくぬく暮らしてやがった邪魔な老人たちの存在だったんだよ。
老い先短い老人と、無限の可能性の未来が待っている赤ちゃんの命の価値は、全然イコールじゃないもんな。
若者の自殺者数も格段に減った。当たり前か。
俺も老人廃棄法には賛成の立場に回って国民投票の時はスマホで賛成票を投じた。
今の老人たちは大昔の知恵者としてのいわゆる『お年寄り』などでは全くなくて、ただ公害のようにエゴと汚物を撒き散らす社会のために良くない無法集団でしかないからな。
昔の事は知らないが、少なくともそれが現代日本の回答だった。
残された人口6000万人の国民の総意だった。
かくして街からは、アクセルとブレーキを踏み間違えて幼い園児らの列に突っ込み、若い命を轢き殺してもいけしゃあしゃあとしているような極悪老害は消えたが、龍たちは増え続けているみたいだ。
老害たちとまるで入れ替わりのように。
迷惑の対象者は、減らない。
奴らの根城の山々に核攻撃をいくらしても駄目だ。
翌日にはその仕返しとばかりに軍事施設が襲われた。
被害は甚大だった。
龍の棲む山々に今日も『お供え』と呼ばれるエサの老人たちが運ばれていく。
彼らは一様に無表情だ。
悟りきっているのだろうか。
いやただ単にボケているんだ。
分かっていないだけだ、もう自分たちは既に人生が終わっているって事に。
この日のお客さんは一戸建てのご家庭で、まだ若い夫婦だった。
こども用の自転車やこども服などが合わせて数十点。
聞けば、龍に幼い娘を殺されたらしい。
しかも目の前で。
痛ましい事だ。
龍は。龍は絶対に許せない。
一匹残らず殲滅するべきだ。
自転車以外ほとんど転売は見込めないためこちらの上がりは少ないが、俺は回収費用を三割まけてあげた。
少なくともそれが思いやりだと思ったからだ。
太陽燦々!
寒いけど久しぶりに二階のテラスでバーベキューしようと思って近所の業務用スーパーのカステコで塊の肉と野菜と調味料と酒を買った。
お酒飲むな酒飲むなのご意見なれど酒飲む。
バーボンも買った!
トッツィーもウンバボも呼ぼう。
買い物を終えてカステコの外の道路をポテポテ歩いていたら、やけに背の高い奴が向こうから歩いてくる。
歩き方がどこかぎこちない。
なんだこいつと思ったら俺の前方十数メートルを歩いていたカステコで買い物帰りっぽい話し声がでかそうなオバハンの主婦二人がその背の高い奴に襲われた!
ユアキディン?
正気か?
肩の辺りを乱暴に掴まれて、頭からバリバリと喰われている。
主婦は頭をかじられながら、
「あーやだ。痛いじゃんねー」
と言って果てた。
やべえ!
やべえ、こいつ『ヒューマン龍』だ!
髪型や肌の色、服装まで完全に人間に擬態化してたから至近距離まで気がつかなかった!
もう一人のオバハンも喰われた。
オバハンはその最期まで両手に持ったパンパンになったカステコのレジ袋を離そうとしなかった。
物欲の塊なとこが逆に尊敬出来る。
ヒューマン龍はオバハンの上半身をそのいやらしい牙と割れた舌先で喰らいながら、ニタニタニチャニチャ嗤っている顔の表情になって、それがすごく不気味だった。
俺はカステコまで走って逃げた!
あそこは数多くの商品棚で迷路になっている。
奴は一匹だ。
一直線のこの道路より逃げやすく、また他にエサとなる客も多くいるから生き残るパーセンテージが格段に上がる!
くそ。買った肉が重い!
俺もパンパンになったカステコのレジ袋を離そうとしなかった。
物欲!
背後からヒューマン龍が追いかけてくる!
俺は怖すぎてエヒャウヒャ笑ってしまった。
全力疾走する!
頭の中ではイギの軽快なナンバーが流れていた。
太陽燦々だった!
バーベキューやるまでは死ねるか!
Lust For Lifeだ!
続く
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