第4話
「龍街(リュウマチ)第四話」
堀川士朗
2043年1月。正月祝日明け。
午後3時。
回収現場から現場までの移動の途中で龍に出くわした。
遠い距離だが、数十匹はいるみたいだ。
軍がケージの中に小さなこどもの龍を入れて囮にして、群れを誘き寄せようとしている。
広い四車線の道路上には一個中隊ほどの陸上自衛隊が部隊を展開していた。
「ほら、キチキチ鳴けよ」
「鳴いて親を呼べ、ガキ龍」
隊員たちはタバコを吸って笑いながらそう言っていた。
やがてチャイルド龍の檻に龍どもが飛来してきた。
こどもを助けようとしているみたいだ。
「民間人は危ないから下がれ!」
と、陸自のニ曹ごときが偉そうに言っているが、俺は見物する事にした。
「近田千太郎。2015年9月6日東京生まれの27歳。ああん?貴様……何だ、元自衛隊員か」
二曹は勝手にヘルメットに装備されている識別スキャナーで俺の網膜に刻まれた生体マイナンバーをスキャンしていた。
まあ非常時だからしょうがねーか。
「良いか、死んだら自己責任だぞ」
「へーいへい」
これだけの装備と人員ならば数十匹の龍でも勝てるだろう。
ノーマルタイプの龍しかいないし、余裕だろう。
俺は缶コーヒーを飲みながら見物を続けた。
道路脇の格納庫から『甲虫』が出てきた。
36式八輪無人自動小型戦闘車『甲虫』四輌が道路を疾走する。それぞれ時速120キロは出ている。
『甲虫』は人工知能によって龍の素早い動きを高速自動追尾し、二門搭載されている65ミリ電磁ライフル砲で砲撃を加えていく。
また。ほらまた龍が胸板や頭を打ち砕かれて死んでいった。
凄い!
昆虫の頭脳で無慈悲に殺していく!
龍たちは逃げていく。
『甲虫』は深追いはしなかった。
今日は、わが社『斡旋ブル』の新年会。トッツィーも呼んであげた。
俺とウンバボは腹が減っている。
龍と同じだ。
いや、龍の事は忘れよう。
高級割烹『玉膳』でふぐとカニのフルコース料理。
カニスキ、フグチリ、お刺身などを味わう。
ウンバボは感動している。
カニの殻ごと食いそうな勢いだ。
トッツィーはフグ料理を初めて食べたらしく、しきりに「美味しい~」と目を細めていてかわいい。
「もぐもぐ」
「もぐもぐ」
「美味すぎだヨ社長!」
「やあ、いつもウンバボは頑張ってくれてるからね」
「うぐ…アリガト」
「泣いてないでいっぱい食べなよウンバボちゃん。センちゃんのおごりなんだから!」
「うん!ありがとうトッツィーちゃん」
「飲んで食べてね」
「うん、今日はひたすら飲み食いするヨ」
「すんませーん、てっさとカニグラタンもう2皿追加でー。あと生中3つー」
こういった祝いの席では、俺はカネに糸目はつけない。
カネは使うためにある。
貯めるためじゃない。
目から鱗の活き活きライフハック!
どうせ貯めていたって、俺も75歳を過ぎれば全財産没収されて国営の牢獄みたいな工場で働かなきゃならないんだ。
老いは順送りで、決して誰にも避けられない道だ。
今を楽しもう。
今は楽しもう。
龍の件もある。
こんな世の中になっちゃった、というのもある。
こんな世の中になっちゃったんだからな。
それでも、俺たち若者は毎日を楽しく下らなく真面目に汗かいて笑って泣いて生きて過ごしているのかもしれない。
透き通るような白さのてっさがうめえ。
俺は、俺はこの日常が好きだった。
大人しく納税する羊の生活を送るよりも、龍がいてタイトロープな危険な環境の中で日常を謳歌する方が、ずっとスリリングでドラマチックで楽しい人生だろう?
それが、人間本来の姿だ。
俺はそう思うぜ。
続く
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