第7話
「龍街(リュウマチ)第七話」
堀川士朗
夜8時。
俺とトッツィーは俺の部屋のロール状スクリーンテレビの前に釘付けになっている。
今日のロール状スクリーンテレビは、いつもの34インチから85インチまで拡大してある。
特番だからだ。
自衛隊とオクナカコーポレーションアーミーによる大々的な共同掃討作戦が群馬(ムレバ)県と新宿(ニーヤド)で同時刻に展開されていた!
テレビはそれを生中継で映し出している。
恐らく龍の戦力を二つに分散させる狙いがあるのではないだろうか。
新宿(ニーヤド)。
民間人は既に退避させ、疑似的市民として大量に用意されたエサ用の老人たちが歌舞伎町をひしめき歩いていた。
若い服を無理矢理着させられ、街に溶け込めず、似合っていないのが笑えた。
諦めきった顔を浮かべている。
わめいている暴力老人もいる。
この機を逃さず暴動、など決して起こさせまいとして隊員たちは戦闘車輌の上から、容赦なく廃棄老人たちに銃を向けて安全装置も外してトリガーに人差し指をかけていた。
龍はひと気のある街を好む習性がある。それだけ食糧にありつけるからだ。次々新宿に集まってくる。
龍1000匹と廃棄老人3万人の密集。
混濁としていく二つの群れ。
次々と、バクバク。
バクバク喰われていく。
悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴。
3人飲み込んで咀嚼しては、胃の中で溶解液で溶かし、余分な3人分の服を吐く龍。
あとはその繰り返しだ。
つまり一度に飲み込める量はだいたい3人まで。
その隙をつく。
オクナカコーポレーションアーミーの小銃はM40―IARS改良型。
YAMDUPS弾を使用している。
これは弾頭に電子オートジャイロのチップが組み込まれていて、誤差3ミリの自動追尾で龍の頭部または心臓部を誘導狙撃出来る。
つまり無理な体勢でも、真後ろを向いて撃っても誘導追尾で弾丸が敵の急所に命中出来るという事だ。
大変高価な弾だ。
自衛隊にはその予算はおりないだろう。
エサに喰らいついた龍の群れ1000匹余りに対して、的確に無駄弾を使用する事なく仕留めていく!
俺たちは渋谷区でテレビを観ているが、かなり遠くでドン、ドンドンと花火のような音がしている。
砲撃だろう。
テレビの新宿の映像とリンクして、臨場感があった。
二元中継。
関東エリアを襲来する龍の本拠地である群馬(ムレバ)県の山の方では巨龍が3匹現れた!
想像以上に動きが速くてその巨体ゆえに、あんなに強かった『甲虫』自動戦闘車が次々潰されていった!
隊員もやられている!
同時に10の目標物を捕捉し攻撃を加えられる最新鋭の42式ハンディロケット砲『血槍富士』。
その同時斉射。
一発や二発では巨龍は絶対に倒せない。だから多方面からの攻撃が有効となる。
ダメージは計り知れない!
アニソンみたいな心踊るBGMが流れている。
この戦い、勝てる!
否が応でもそんな気がしてくる。
『矢留影綱(やどめかげつな)少尉(オクナカコーポレーションアーミーは三尉ではない)、43歳』と紹介されたオクナカコーポレーションアーミーの隊員が血槍富士を肩に担いで走っている。
彼の顔がクローズアップされる。
なかなかハンサムだ。
精悍な顔つきをしている。
軍人だから当たり前か。
戦歴が文字情報として現れた。
彼は20年前の東京都宇達区、苔緑団地殲滅作戦などに従軍経験がある。
『団地大戦争』だ!
懐かしい。
あれはテレビで生中継されていて面白かった。
俺はまだ子供だったけど。
宇達区なんて消えてなくなれば良いと子供心ながら観ていて思っていた。
全員前頭葉がない馬鹿しか住んでない東京都の低悪スラム街だからな。
ある日、苔緑団地は巨大な壁で自らの敷地を覆い、日本国から独立蜂起した凶悪なテロリスト集団となった。〈と、少なくとも日本ではそう報道されていた。〉
奪還作戦にこちらからも多大なる犠牲者を出して、最後は戦術核が用いられたんだっけ。
苔緑団地は滅んだが、億中会長はそんな下らない日本を捨てて、その後スイスに移住した。
いくつかの会社と、オクナカコーポレーションアーミーを日本に残して。
それが、その後の日本にとっては大変幸運だったという訳だ。
彼らがいなければ日本は龍によって滅んでいたかもしれない。
矢留影綱少尉が血槍富士を放つ!
噴煙が上がって巨龍の頭部に何発かのロケット弾が命中する!
大爆発!
頑張れ矢留影綱!43歳!
働く中年の星!
CMになった。
俺は冷蔵庫から3本目のビールとカマンベールとプロシュートハムを出してソファーにドッカと座り、トッツィーに軽くキスした。
続く
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