出会いイベント


 フィリオス・ナリュータとの出会いイベントの後、クリュッセルは自室へと戻り、入浴をした後にゆっくりと夢の世界へと入っていった



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 「…さん、姉……、姉さん!」

 私が気が付くとそこは見慣れた部屋。築十年の十畳程の広さのアパート。

 私のことを姉さんなんて呼ぶのは弟の小鳥遊 洸希(22)だけのはず、と不審に思い声のする方へと視線を向けるとそこには案の定、洸希が立っていた。

 『ちょっと!私はアンタの目の前にいるでしょ』と洸希に言おうとするが言葉が出ずただ口をパクパクするばかり。

 (なんで!?なんで声が出ないの!?)

 焦りながら手を洸希に伸ばすがその前に強い風が吹き、バランスを崩して後ろに倒れてしまう。

 「きゃっ!」

 と、声が出たと思えば今度は何も無い空間。いいや、何も見えない空間だった。

 「何処よ此処…」

 すると何処からか啜り泣く声が微かに聞こえる。

 「誰?どこにいるの?」

 身体に纏わり付く様な暗く重い闇に嫌気がしつつも声のする方へと向かう途中でまた強い風に吹かれバランスを崩すと意識を失う。その時に幼い声が聞こえた気がした。


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 意識が浮上してくるとそこはもう夢の世界ではなく、現実世界だった。

 しかし、先程までの夢を覚えていたからなのか鼓動は早鐘を打ち、汗も纏わり付く様な嫌な汗をかいていた。

 怖くなり、小刻みに身体が震える。今日は起きてからメイドのリャイナが来るまでは不安にならないように楽しかったこと、これから始まるであろうラスティーク様とのキャッキャウフフな生活を想像してニヤニヤニマニマしながら過ごしていた。





 リャイナに学園へ行く為の準備をしてもらうとクリュッセルは早速ラスティークに偶然を装って会うために早めに教室へと向かうと今度はガスティン・ハーダとの出会いイベントが起こるはず……なのだが、ガスティンは自身の鍛錬の途中のため、たまたま通りかかった彼女に「おはよう」と一言告げると鍛錬を再開した。クリュッセルはその「おはよう」に対して「おはようございます」と返し、そのまま教室へと急ぐ。

 (そうよ!ガスティン様の様な簡単な出会いで良いの!なんでみんな絡んでくるの!いや、フィリオス様に関しては私が絡んで行ったけど!っていうか今気付いたけどまだ一人出会いイベント終わってないわ!)



 教室へ着くと取り敢えずは授業の準備をし、残った時間に勉強する用のノートを取り出すとペンを持つ。

 (あとはラスティーク様が来るまで“ラスティーク様としたいことノート”に私の妄想もといいずれ実現する未来への希望ノートに何をしたいのかを描き込まなきゃ!)

 勉強する用ノートもとい、ただの妄想ノートに流れるようにメモを取る。

 しかし、中々来ないラスティークと既に人も何人か入って来ているから“ラスティーク様としたいことノート”をこっそりとしまい、ラスティークを探しに行く。


         ドンッ!


 「わっ!」

 「きゃっ!」

 その道中でどうやら曲がり角で人とぶつかってしまった様で、古の少女漫画のようなハプニングが起こる。

 (は?今どきの少女漫画でもない『(食パン咥えて)遅刻遅刻〜☆(曲がり角でイケメン(転校生)とぶつかる)もう〜!なんなのよ〜!プンプン!っていけない!遅刻しちゃう!……(先生)転校生を紹介する。入ってきなさい。ガラガラガラ、(転校生)どうも。(私)あ〜!アンタは今朝の!』じゃないんだからさ!)


 「っ〜…だ、大丈夫?」

 「え、ええ。…ごめんなさい。私急いでいて前を見ていなかったの」

 「大丈夫!大丈夫!僕の方こそごめんね!じゃあ僕も用事があるから〜!じゃあね!」

 「えぇ、それでは」

 ぶつかった少年は元気よく手を振りこの場を去ろうとするが振り返って。

 「ねぇ!お姉さんってなんて名前?」

 「え?私ですか?クリュッセル・ナージャと申します」

 「クリュッセルさんね!覚えとく〜!」

 「あ、あの、貴方は…って行っちゃった…」

 クリュッセルとぶつかった少年は名前を聞く暇もないほどあっという間に走り去ってしまい、背中はどんどんと遠くなって行った


 (ふぅ…朝から人にぶつかるなんて…ってあれ?もしかして今のイメリード・フォークスとの出会いイベントじゃない!?あ〜…遂に全員との出会いイベントが終わっちゃった…)

 と、これからどうやってルート回避しつつラスティークとのラブラブ♡キャッキャ!イチャイチャ♡ウフフ!をするか頭を悩ませるクリュッセルだった。


 一方、ラスティークはクリュッセルがメイリードとぶつかった頃に教室に着き、それに気付かなかったクリュッセルは授業ギリギリまでラスティークと同時に教室に入る為に探しまくった結果、普通に授業に遅刻して、ラスティークからの冷たい視線を受けて脳内でお礼を告げていた。

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