第51話

それからあたしたちは飯田アキラに連れられて、旧校舎の2階へと移動して来ていた。



妙な人影が見えていたあの場所へ向かうと、そこには今までなかった扉が現れていたのだ。



「みんな、大切な人奪って本当にごめん。こうでもしないと俺の腕時計を探し当ててくれる人はいないと思ったんだ」



飯田アキラは申し訳なさそうにそう言うと、そのドアを開いた……。



「陽!!」



そんな声がして、栞がドアから走って出て来た。



陽に飛びつくようにして抱き着く。



「栞……!!」



陽は目を丸くして、だけど嬉しそうに栞の体を抱きしめた。



栞だけじゃない。



工事の格好をした男性たちや、今の椿山高校の制服を着ている生徒たち、それに……吉原郁美の姿まであったのだ。



この腕時計に関わって行方不明になっていた人たち全員が、この部屋の中にいたんだ。



「栞、大丈夫だったか? なにもなかったか?」



「大丈夫だよ。この部屋の中は出口はなかったけれど中はすごく快適だったの!」



「そ、そうなのか?」



陽はチラリと飯田アキラを見る。



「なんなら入ってみる?」



飯田アキラにそう言われて、慌てて左右に首をふる陽。



その様子に思わず笑ってしまいそうになった。



「みんな、戻って来たんだね」



一気に騒がしくなった旧校舎。



「あぁ、そうだな」



健が頷き、あたしの手を握りしめた。



水原先生は戻って来た吉原郁美を前にして必死に頭を下げている。



そう言えば、吉原郁美はどうして行方不明になっていたんだろう。



「あんた、あたしの事よくも殺してくれたわね!!」



吉原郁美の物騒な言葉に目を見開くあたし。



「ち、違うんだ!」



「なにが違うのよ! 人殺し!!」



声を荒げてブンブンと両手を振り回す吉原郁美。



職員室で争った後、吉原郁美は殺されていたのか。



未来が代わり、吉原郁美は飯田アキラと同様にこの世に蘇って来たんだ。



「先生には少しお仕置きが必要みたいですね」



そう言ったのは飯田アキラだった。



飯田アキラはジッと水原先生を睨み付けている。



「お、俺は何もしてない!!」



必死でそう言うが、水原先生の言葉なんて信用できなかった。



「先生にはしばらくこの部屋に入っていてもらいましょうか。部屋の中は広いし食べ物もあるし、快適ですよ?」



飯田アキラが水原先生の腕を引き、扉の前へと移動する。



「い、嫌だやめてくれ!!」



必死で抵抗する水原先生の頭に五十嵐孝が拳を落とした。



過去五十嵐孝のように悶絶してうずくまる水原先生。



五十嵐孝はその体を転がすようにして部屋の中へと移動させた。



「夏休みが終わるころには出してあげますから」



飯田アキラはそう言うと、扉を丁寧に閉めたのだった……。

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