第48話
その時だった。
職員室に1人の小柄な生徒が入って行ったのだ。
それは栞によく似た女の子だった。
「あれは誰?」
あたしは誰ともなくそう聞いた。
「あれは月子ちゃんだ」
そう返事をしたのは武田陽太だった。
「あぁ、学校のマドンナだったな」
松田邦夫がそう返事をする。
なんで学校のマドンナがこんな所に?
そう思いながら映像を見ていると、先生2人は月子が入って来たことに気が付かず、言い合いを続けている。
どんどんヒートアップしていて、水原先生は机の上のペン立てを床に投げつけた。
「そんなことして脅しているつもり!?」
吉原郁美は態度を崩さずに声を荒げた。
そんな中、月子が先生の机の引き出しをそっと開けた。
誰の机なのかわからなかったが、あたしの後ろでよく太った水原先生が軽く舌打ちをしたのが聞こえて来た。
そして、引き出しの中からあの腕時計が取り出された。
「あれって……」
渚が腕時計を指さして呟く。
「間違いない、アキラの腕時計だ」
「なんで月子ちゃんが?」
五十嵐孝が信じられなないという様子でそう言った。
水原先生の机から腕時計を持ち出した月子は、そのまま広間へと走って行った。
あたしたちもその後を追いかける。
広間には月子があらかじめ用意していた小さな宝石箱があり、月子はその中に腕時計を入れたのだ。
「まさか、自分のものにするつもり?」
渚がそう呟いた時だった、月子は柱時計の扉を開けその中に箱を入れたのだ。
「いつか本当に必要な人が現れるよ。だからその時まで、ここにいてね」
月子は宝石箱へ向けてそう話かけ、柱時計の扉をゆっくりと閉めたのだった……。
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