第47話
そしてまた夜が来ていた。
お父さんに車で旧校舎まで連れ着てもらうと、いつもと違う雰囲気がそこにはあった。
あたしたち以外に、水原先生、武田陽太、松田邦夫、そしてもう1人、見慣れない男性の姿があった。
「咲紀、こっち!」
あたしに気が付いた渚が手を振った。
小走りにみんなの元へ行くと、見知らぬ男性と視線がぶつかった。
男性は強面な顔をしていて、頬に大きなケガの痕がある。
思わず後ずさりをしてしまう。
「はじまして、五十嵐孝です」
見た目とは反対に、丁寧に挨拶をして頭を下げる男性。
この人が五十嵐孝……!
学生時代の面影はなくなり、イカツイおじさんになっている。
「は、はじめまして。村上咲紀です」
緊張で思わず声が裏返ってしまった。
「咲紀、そんなに緊張しなくても大丈夫だぞ。五十嵐孝さんは今警部さんなんだってさ」
健の言葉にあたしは驚いて目を見開いた。
てっきり警察の真逆の職業の方かと思ってしまった。
「飯田アキラに悪い事をしてしまったという罪悪感から、もう悪い事はしないと誓って、警部さんになったんだって。それでもこの街にいることが辛くて、県外に出てたみたい。今日は探し物のために帰ってきてくれたんだよ」
渚がゆっくりと説明してくれた。
そうだったんだ。
五十嵐孝は飯田アキラを殺してしまったと思って、随分と苦しんだのだろう。
「明には本当に悪い事をしてしまった。死んでから悔やんでも遅いのにな」
そう言う五十嵐孝の目には涙が浮かんでいる。
心から後悔しているから、今ここに来てくれているんだ。
「もうすぐ時間になります。行きましょう」
陽がスマホを確認してそう言い、9人になったあたしたちは旧校舎へと足を踏み入れたのだった。
☆☆☆
旧校舎の中はいつもと同じように冷たい空気が流れていた。
しかし少しだけ温もりを感じる事が出来るのは、今日は人数が多くて心強いからかもしれない。
「懐かしいな」
「あぁ。でも、この雰囲気は確かに怖いな」
「あ、広間だ。ここでよく遊んだなぁ」
そんな会話をしながら移動するものだから、あたしたちの緊張感までどこかに吹き飛んでしまいそうだった。
9人そろって柱時計の前に立つ。
さっきから黙っているのは水原先生1人だった。
「そろそろ2時だな」
陽がそう言い、ライトを消した。
あたりは暗闇に包み込まれる。
ほんの1分くらいの時間がとても長く感じられるようだった。
今日でなにかが変わる。
もしくは、終わるかもしれない。
大きな期待を抱いていた。
そして、いつもの音が鳴りはじめる。
あたしは目を閉じて深呼吸をした。
胸に響く柱時計の音。
これを聞くのも、もう最後にしたいと思う。
目を開けるとあたりは明るくなっていた。
「うわ、マジかよ」
周囲を見回して驚いた声を上げる松田邦夫。
武田陽太は興味深そうに校舎内をジッと見つめている。
「職員室へ向かおう」
そう言ったのは健だった。
昨日の映像で腕時計が職員室に移動しているからだ。
あたしたちは健に言われた通り、移動を始めた。
案の定、職員室に人影が見えた。
「あれって……」
職員室の窓から中を見ると、見覚えのある先生の姿があってそう呟いた。
「水原先生だ!」
海が言う。
教室の中にいるのは若い水原先生と吉原郁美だったのだ。
吉原郁美は顔を真っ赤にして水原先生を睨み付けている。
が、水原先生の方は涼しい顔をして吉原郁美を見下ろしていた。
「あなたが腕時計をとったんでしょう!?」
吉原郁美が水原先生に問い詰める。
「それがどうかしたのか? あの時計は元々生徒のものだ。俺はそれを本人に返しただけだ」
そう言うので咄嗟に「嘘だ」と、呟いていた。
本当に飯田アキラの元や、その家族に戻っていれば、こんな探し物だってしなくてよかったはずだ。
「どうしてそんな嘘をつくの!?」
吉原郁美は悲鳴に近い声を上げる。
「嘘だなんて、どうして言える?」
「だって、あの腕時計は……」
そこまで言い、口を閉じてしまう吉原郁美。
飯田アキラはすでに死んでしまい、返す事なんてできない。
そう言いたいけれど、口に出せない様子だ。
2人の言い合いは更に続いていく。
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