第45話
「腕時計は俺は持っていない」
ソファに身を戻し、水原先生はそう言った。
「え……?」
「嘘つくなよ!!」
唖然とするあたしの代わりに海が怒鳴った。
「本当だ。俺が郁美から盗んだ後、すぐにまた盗まれた」
「絶対に嘘だ!!」
陽も眉を吊り上げて抗議する。
「よく考えてみろよ。時間が戻せる時計を手に入れたら、教師なんてとっくにやめてるだろうが」
そう言われて、あたしたちは言葉を失った。
確かにそうだ。
水原先生は借金があった。
それなら、時計を手に入れて真っ先に考えるのはお金を稼ぐ方法だ。
勝敗を予想する賭け事で大金を手に入れることは簡単なはずだ。
「それじゃぁ、腕時計は一体どこに……」
「知らないね」
フンッと鼻を鳴らす水原先生。
すでに自分の正体がバレているから、校長の前でも堂々としたものだ。
クビを覚悟して暴露したんだろう。
「水原先生は事件の事をよく理解しているようなので、今日からはこの子たちを手伝い旧校舎で探し物をするように」
不意に校長にそう言われ、水原先生が青ざめた。
「ちょっと、冗談ですよね?」
「冗談じゃない。君も今の旧校舎を作り上げた人間の1人だろう。生徒たちだけに恐怖や悲しみを味あわせるつもりか?」
「で、でも……」
水原先生はまた汗をかき始めた。
あの旧校舎でどれだけの人が犠牲になったのか、よく知っているのだろう。
知っていて今までのノウノウと暮らしていたのかと思うと、やっぱり腹が立った。
「それなら松田邦夫と武田陽太にも連絡を入れて手伝ってもらおう。当時のメンバー勢ぞろいだ」
健がそう言い、水原先生を見た。
「そうするといい。本人たちの問題は本人たちで片づけさせるべきだ。水原先生、もし今夜彼らとの約束を破るようなら、今の出来事を警察に報告しますよ」
校長はそう言い、膝の上からテープレコーダーを取り出した。
いつの間にそんなものを用意していたのか、あたしは驚いて校長を見た。
あたしと視線が合うと、校長はへたくそなウインクを返して来た。
水原先生は完全に黙り込んでしまったのだった。
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