第43話

校長先生の部屋に入ったのはこれが初めてのことだった。



もっと名誉なことで呼ばれたならよかったのに……。



豪華な茶色にソファに座っても、座り心地は最悪の気分だった。



あたしたち5人が座り、その前のソファに校長先生が座る。



大理石のテーブルを挟んで向かい合っていた。



校長先生は律儀にもあたしたちに麦茶を出してくれたけれど、緊張で喉を通らない。



「君たちは自分の意思で旧校舎へ行っているのか? それとも、別に理由があるのか?」



その質問にあたしは健を見た。



健も好調の質問に違和感があったらしく、チラリと目配せをしてくる。



生徒を叱る時にソファに座らせるというものおかしな話だ。



「もちろん、理由があるからです。校長先生はなにか知っているんですね?」



陽が真っ直ぐ背筋を伸ばしてそう聞いた。



校長は顎髭をさすり「まずはすべてを教えてくれないか」そう言ったのだった。


☆☆☆


今までの出来事を順序立てて話すのは大変だったけれど、校長は黙ってあたしたちの話を聞いてくれていた。



すべてを話し終えると、校長は軽くため息を吐き出して髭から手を離した。



「以前にも、何度か同じ事が起きている」



重苦しい雰囲気の中、校長がそう言ったのだ。



「え……? 何度かって、近藤先輩から聞いた話以外にもあるんですか?」



「あぁ。それまでにも何人かの生徒たちが旧校舎へ行き、そして行方不明になっている」



「なんで、そんな危険な建物を取り壊さないんですか?」



健が身を乗り出してそう聞いた。



あたしも同じ気持ちだった。



「壊そうとしたが、できなかったんだ」



校長はそう言い、昔を思い出すように声を絞り出した。



「頼んだ業者の人間が次々と失踪してしまった。みんな、いなくなったんだ。それ以来街にも旧校舎についての妙な噂話が出るようになって、取り壊しを反対されるようになったんだ」



校長の話はにわかにも信じられないものだった。



だけど、それが本当のことなら今でもあの旧校舎が建っている意味はわかった。



壊したくても、壊せないのだ。



「そうだったんですか……」



健が力なく呟いた。



校長があたしたちの話を真剣に聞いてくれた意味もよくわかった。



「君たちは今大変な経験をしているんだな。私に力になれることがあれば、なんでも言ってくれ」



「本当ですか!?」



陽が目を輝かせる。



校長に頼みたいことなら、もう決まっているようなものだった。



「あぁ。言ってみなさい」



「水原先生と話がしたいです」



陽はハッキリと、そう言ったのだった。

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