第42話

今日の目的は吉原先生について調べる事。



5人で新校舎へ向かい、職員室をノックする。



ドアを開けて中を確認してみても、誰の姿もなかった。



「今日は小藪先生もいないんだね」



職員室を覗き込んであたしはそう言った。



「どうする? さすがに先生の許可なしにアルバムを見るなんて――」



渚がそこまで言った時、海がズカズカと職員室に入って行ったのだ。



「って、ちょっと海!」



渚が慌てて止めようとするが、海は当然のようにアルバムのある棚の前まで移動していた。



「まぁいいか。先生の許可なんて言っている場合じゃないもんな」



唯一真面目な陽までそんな事を言って職員室の中に入って行く。



仕方なく、あたしたちもそれに続く形になってしまった。



誰もいない職員室に入るのは結構抵抗がいるなぁ。



そう思いながら海の隣に立った。



「ノートを貸してくれ」



海がそう言い、陽がノートとペンを取り出した。



すでに吉原先生の住所を見つけたようだ。



「さっさとメモして、その住所に行ってみよう」



健がそう言った時だった。



ガラッと音がして職員室の戸が開いたのだ。



ハッと息を飲んで振り返ると、そこには副担任の水原先生が立っていた。



体格のいい男性教師はあたしたちを見て目を丸くしている。



逃げなければと、咄嗟に体が動いていた。



だけど入口は1つしかない。



そこには水原先生が立っている。



どうしよう……。



「お前ら、なにしてる?」



驚きから立ち直った水原先生があたしたちを睨み付けてそう言ったのだ。



まずい……。



逃げなきゃいけないのに、逃げ道はない。



海がメモを終えてアルバムを元に戻した。



「探し物をしてるんです」



健が一歩前へ出てそう言った。



「探し物? 職員室でか?」



水原先生は全く信じてくれていない。



それもそうだろう。



勝手に職員室に入った生徒の言葉を信用するはずがない。



「そうです」



「何を探してるんだ?」



「腕時計です」



健は迷う事なくそう言いきった。



あたしは1人どうすればいいかわからず、水原先生と健を交互に見つめるだけだった。



「腕時計?」



水原先生は眉間にシワを寄せ、あたしたちに近づいてくる。



絶対に信じてもらえてないって!



健にそう言おうとしたとき、あたしはある事に気が付いた。



水原先生の顔が、昨日見た写真の男と似ているのだ。



「あ……」



思わず声をもらす。



随分とふくよかになっているし、老けているけれど確かに面影はある。



健は水原先生を見た瞬間、その事に気が付いたんだろう。



水原先生の目をジッと見つめてそらそうとしない。



「水原先生、吉原郁美って人のこと知ってますよね?」



健がその名前を出した瞬間、水原先生の顔がサッと青ざめたのがわかった。



「な……なんで……」



青ざめて後ずさりをしている時点で、質問に肯定しているようなものだった。



やっぱり、あの写真に写っているのは水原先生だ!



「先生と吉原郁美さんは付き合ってたんですよね?」



健が更に問い詰める。



写真に画鋲を刺されるくらいに眩まれていたと言う事が、探し物に関係するかもしれない。



「し、知らない!!」



水原先生はそう言うと、大きな体を揺らして職員室から逃げ出した。



「あ、先生!!」



あたしたちは慌ててその後を追いかける。



廊下に出た瞬間、校長先生をぶつかりそうになって足を止めた。



「君たち、何をしてるんだ?」



自慢の白い髭を生やした校長先生は驚いて目を丸くしている。



その間に水原先生はどこかに逃げて行ってしまった。



太っているくせにすばしっこい。



だけどこれで主任の先生が何かヒントを握っているかもしれないということがわかった。



それなら何度だって問い詰めればいいんだ。



「もしかして、君たちか?」



校長先生にそう言われ、あたしは「え?」と首を傾げた。



「最近旧校舎に出入りしている生徒がいると、近隣の方たちから連絡が来ていたんだ。おそらく今の椿山


高校の生徒だろうとね」



そう言いながら、髭をさする校長先生。



「あ……そ、それは……」



まずい。



学校にまで連絡が来ているなんて思わなかった。



しかも目の前にいるのは校長先生だ。



下手とすればどんな処分が下るかわからない。



体中から汗が噴き出すの感じていた。



「話をきかせてもらおうか」



校長先生の言葉に、あたしたち5人は素直に頷くしかなかったのだった。

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