第40話
先生が生徒のものを盗むなんて信じられない!
腕時計を手にして教室から逃げ出す様子を見て、あたしは唖然としてしまった。
とても優しそうな顔の先生だったから、余計にショックな出来事だった。
そして、記憶は消えて明かりだけが残った。
「職員室へ行ってみよう」
陽が真剣な表情でそう言い、歩き出した。
あたしもその後に続く。
あたしたちの目的はただ探し物をすること。
そうわかっているのに、心はモヤモヤとした嫌な気分に覆われていた。
生徒にとって先生は信用している相手だし、なにかあれば助けてくれるような、大きな大きなそんざいだ。
それが踏みにじられたような気分だった。
歯を食いしばって歩き、職員室の前まで移動してきた。
すると、そこでまた人影が動いているのが見えて、あたしたちは手前で立ちどまった。
「まだ映像に続きがあるんだ」
健がそう呟き、職員室の中を覗いた。
健の言う通り、中には吉原先生の姿があった。
吉原先生は盗んできた腕時計を机の中に隠している。
そこで映像は消えた。
「あそこに腕時計があるってこと!?」
あたしは興奮気味にそう言った。
「たぶんな」
陽が大股に歩き出す。
まさかここまで映像で見る事ができるとは思っていなかったあたしたちは、急いで先生の机に集まった。
でも……違和感が胸の奥を刺激した。
こうして腕時計のありかまでわかってしまうんだったら、どうして近藤先輩の知り合いは海外へ逃げたんだろう?
見つけられていれば、海外へ逃げる理由だってないはずだ。
疑問と不安は大きく膨れ上がり、陽が引き出しを開けた瞬間、それは現実のものになっていた。
「……ない」
陽が小さく呟いた。
そう、たしかに机の中に腕時計はなかったのだ。
目の前が真っ暗になる感覚だった。
ここまでたどり着いて、ようやく終わりを迎えることができると思っていたのに……。
まだ、終わらないなんて。
「もっとちゃんと探せよ」
海にそう言われて、陽は引き出しの中にあるものを全部机の上へと出していく。
その中に腕時計はなかった。
「なんでないんだよ……」
健が絶望的な声を漏らした。
「よ、吉原先生が腕時計を盗んだのも何年も昔の話だよね? だとすると、ここにはもうないのかも……」
渚がそう言いながら、どんどん声が小さくなっていった。
ここにないのだとすれば、どこを探したらいいのかわからない。
また、振出しだ。
「ねぇ、ちょっと待って」
机に置かれた物の中に写真が何枚も混ざっていることに気が付いて、あたしはそう言った。
全部、吉原先生ともう1人男性が写っている写真だった。
吉原先生の恋人なのかもしれない。
男性はスーツを着ていて、身ぎれいな格好をしている。
しかし、男性の顔の中心に画鋲が付き刺されているのだ。
「あぁ、俺もそれは気になった」
陽が写真を見て顔をしかめてそう言った。
好きな相手の写真なら、こんな風に画鋲を差すなんて事しないはずだ。
だけど写真の中の2人はとても仲良く寄り添って写っている。
誰がどう見ても恋人どおしだ。
だとしたら、吉原先生はこの人と別れたんだろう。
相当怨んでいたように見えるから、綺麗な別れ方もしていなさそうだ。
「この写真の男、どっかで見覚えねぇか?」
海が画鋲を抜いて写真を見つめ、そう言った。
「そうだっけ?」
渚が海の持っている写真を見て首を傾げる。
「そんな事より、今は腕時計を探すぞ! 時間がない!」
陽の声で我に返り、あたしたちは職員室の中を探し始めたのだった。
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