第38話

時計を盗んだのは女教師。



それがわかっても、女教師は行方不明。



1つわかれば1つ謎が浮かんでくる。



前進しているのか後退しているのかわからなくなってきた。



「とにかく、今日も夜中に集合だ。咲紀、来られそうか?」



健のそう聞かれ「うん、大丈夫だと思う」と、頷いた。



昨日健が一生懸命説明してくれたおかげで、今日も外出ができたのだ。



「わかった。じゃぁ、また夜中な」



そして、あたしたちはバラバラに帰宅したのだった。


☆☆☆


家に戻って出かける準備をして仮眠する。



あっという間に時間は過ぎていき、夜中の1時になっていた。



そろそろ行こうか。



流行る気持ちを押さえながら玄関先まで出て行くと、パジャマ姿の両親の姿があって立ち止まった。



まさか、また行くなって言われるのかな?



そう思い、あたしは両親を見つめた。



ダメだと言われたら、また飯田アキラが迎えに来るかもしれない。



昨日の夜を思い出すと背筋が凍る思いだった。



もうあんな思いはしたくない。



「車で送って行く」



突然お父さんにそう言われ、あたしは反応ができずに口をポカンと開けてしまった。



「なにボーっとしているの? 旧校舎へ行くんでしょう?」



お母さんがあたしの背中を押した。



「う、うん……」



「娘を夜中に1人で出歩かせるわけにはいかないからな。帰りは健君にちゃんと送ってもらうんだぞ?」



お父さんが背中越しにそう言った。



「わ、わかった!」



あたしはそう言い、お母さんに手を振って玄関を出たのだった。


☆☆☆


両親も全部を信じてくれたわけじゃないと思う。



だけどあたしの事を信用してくれているんだ。



そう思うと、必ずこの探し物を終えて栞を助け出したいという気持ちになった。



「ありがとうお父さん。行ってくる」



あたしはお父さんにお礼を言い、すでに集まっているみんなの輪の中へと急いだ。



健は車の中のお父さんへ向けて頭を下げている。



「よかったな、咲紀」



健にそう言われて嬉しくなった。



そして、すぐに気を引き締める。



今日もまたあたらしい情報を得る事ができたんだ。



それを踏まえてしっかりと探さないといけない。



「行くぞ」



陽に入られ、あたしたちは旧校舎へと足を踏み入れたのだった。


☆☆☆


相変わらず気味の悪い校舎だけれど、見えて来た全貌に気持ちは高鳴っていた。



もう少しで何が起こっていたのかわかる気がする。



その頃には腕時計のありかもわかっているかもしれない。



そんな、明るい未来を描いていた。



「もうすぐ2時だ」



5人で柱時計の前に立ち、それをジッと見つめる。



ほこりをかぶり、動かない時計の針。



それが突然2時に動いた瞬間、柱時計の音が鳴り響き始めた。



あたしは耳と目を塞ぎ、その短い時間をやり過ごす。



そして目をあけた時、周囲は明るくなっていた。



みんなライトを消し、周囲を見回す。



1年3組の窓から中を見ている武田陽太の姿があった。



「行こう」



陽を筆頭にあたしたちは1年生の教室まで移動した。



武田陽太は少しだけ開いた窓から中の様子を見ていて、他の窓や戸はすべて閉まっていた。



「なにを見てるんだ?」



陽が首を傾げてそう呟いた。



その時だった、海が堂々と3組の戸を開いたのだ。



ガラガラと大きな音を立てて開く。



「ちょっと、海!」



あたしは咄嗟に止めていた。



中にいる誰かにあたしたちの存在がバレてしまうかもしれないと思った。



けど、それは鳥越苦労だったようだ。



海は何事もなかったように教室内へと足を踏み入れた。



記憶が再生されているだけだから、あたし達の存在は関係ないものになるのだ。



今度は海を先頭に教室内へと入って行く。



するとそこには美人な先生が1人教室の中にいた。



教卓に座り、頭を抱えている。



「これが吉原先生?」



渚が誰ともなくそう聞いた。



「たぶん、そうだよね」



あたしは頷いた。



今日武田陽太から聞いた話だと、この人が1年3組の担任教師で間違いなさそうだ。



吉原先生は窓から見られていることにも気が付いていない様子で、何度もため息を吐き出している。



今は放課後なんだろうか?



教室には誰もいなかった。

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