第35話

結局、科学室でも腕時計を見つける事はできなかった。



もしかしたら、盗んだ誰かが外へ持ち出してしまっているかもしれない。



「誰かが消えちゃうのかな……」



外へ出たとたん、不意に渚がそう呟いた。



「え?」



あたしは驚いて渚にそう聞き返した。



「だって、近藤先輩言ってたじゃん。1人ずついなくなったって」



そう言う渚は青ざめていて、今にも倒れてしまいそうだ。



「そうだけど……」



「ねぇ、今日で探し物を初めて何日目になった? 結構時間経ったよね?」




あたしの腕にすがりつくようにして渚が聞いてくる。



あたしは返事ができなかった。



いつ、どんな風に人数が減って行くのかわからない。



今日は大丈夫だったけれど、明日には1人いなくなってしまうかもしれないのだ。



あたしは何も答えないまま、渚の体を抱きしめた。



あたしだって怖いよ。



栞の次にいなくなるのがあたしだったらどうしようって、不安で一杯だよ。



そんな思いで、あたしは渚の震えが止まるまでその体を抱きしめつづけたのだった。


☆☆☆


それからあたしたちは明日武田陽太に会いに行くと言う約束をして、家に戻ってきていた。



玄関の前まで来て立ち止まり、明かりがついている部屋の窓を見た。



突然家を出たあたしの帰りを、両親が待っているのだろう。



あたしの足元は血まみれで、どう説明しようかと考える。



だけどいい言い訳なんて浮かんでこなかった。



「一緒に説明してやるから」



あたしの後ろに立っていた健がそう言い、あたしの背中を叩いた。



きっとこうなることを予想して、一緒に来てくれたんだ。



「うん……」



あたしは小さく頷いて、玄関のドアを開けたのだった。



開けた途端、その音に気が付いた両親がリビングから走って出て来た。



あたしと健の姿を見て目を丸くする。



「咲紀、あんたどこに行ってたの!?」



お母さんの怒鳴り声が降りかかり、あたしは身をすくめた。



「ごめんなさい!!」



大きな声でそう言って頭を下げたのは、健だった。



両親は健の態度に驚き、一瞬たじろく。



「ちゃんと説明するので、聞いてもらえますか?」



健の言葉に、両親は渋々頷いたのだった。


☆☆☆


中に入ってゆっくり説明しろと言うお父さんの言葉を断って、健は玄関に立ったまま旧校舎についての説明を始めていた。



幽霊だとか、イジメだとか、探し物だとか。



色々なワードが出て来る健の話に真剣に耳を傾けてくれている両親。



信じてもらえる自信なんてなかったけれど、不意に健がポケットに手を入れて汚れた生徒手帳を取り出した。



それはあたしたちが教室で見つけたお母さんの生徒手帳だった。



「その探し物をしている最中に、これを見つけました」



そう言ってお母さんに生徒手帳を手渡した。



「まぁ、懐かしい……!」



手帳を開いたお母さんは思わずそう言っていた。



「いつの間にかなくなったと思っていたのよ。まさか咲紀が探し出すなんて思ってもいなかったわ」



そう言い、嬉しそうにほほ笑んだ。



「それに、あの旧校舎でなくなった子がいることはお母さんも知ってるわ。だから、お母さんはあなたたちの話を信じてあげてもいいけれど……」



そこまで言い、チラリとお父さんを見た。



お父さんはまだ仁王立ちをして険しい表情だ。



「健君……と言ったな?」



「はい」



健は背筋を伸ばして頷いた。



「うちの咲紀をちゃんと守れるのか?」



その質問に、健は「もちろんです」と、自信満々に返事をした。



相手は普通の人間じゃないのに自信に満ちているその表情に、思わず笑ってしまいそうになる。



「もしうちの娘になにかがあったら、絶対に許さないからな」



「わかっています」



真っ直ぐにお父さんを見てそう返事をする健。



その姿に胸の奥が熱くなるのを感じた。



不覚にも、カッコいいな。



なんて思ったりして。



「今回は君の言う事を信用することにして、目をつむろう」



仁王立ちをしたままのお父さんにそう言われ、健は深く頭を下げたのだった。

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