第32話

夜中の1時20分。



あたしは旧校舎に到着していた。



4人はすでに到着しているようで、旧校舎の中にライトの光を見つけた。



あたしは呼吸を整えて旧校舎の中へと足を踏み入れた。



ついさっき感じたのと全く同じ寒気が体にまとわりついてくる。



今日はスマホもライトもなにも持ってこなかった。



少し後悔するけれど、仕方がない。



「健、来てるんでしょ?」



暗闇へ向けてそう声をかけると、自分でも驚くほどに声が反響していた。



「咲紀?」



健の声が広間の方から聞こえてきて、すぐにライトの明かりがあたしを照らしだした。



「咲紀、お前どうしたんだよ!」



駆け寄って来た健が驚いた顔をしている。



ライトはあたしの足元を照らし出していて、視線を落とすと自分の足から血が滲んでいる事に気が付いた。



素足のまま全力で自転車をこいできたのが原因みたいだ。



「大丈夫だよ」



「ってかお前、今日は来れないんじゃなかったのか?」



「そうだったんだけどね……」



あたしは健と2人で広間へと移動しながら、さっき起こった出来事を話して聞かせた。



「まじかよ、それ……」



健は顔をしかめてそう言った。



「参加しないと飯田アキラが迎えに来るなんて……俺たちはどうしても逃げられないのかよ」



それこそ、海外まで行かなきゃ助かる道はないんだろう。



「咲紀、どうしたの?」



広間にはみんなが集まっていて、あたしが来たことに驚いている。



「あたしも、みんなに聞きたいことがあるの」



「松田邦夫の事か?」



すぐに感づいて陽がそう聞いて来た。



あたしは「そう」と、大きく頷いた。



結局あたしは夕方も外へ出る事ができず、松田邦夫に会えたのかどうかも知らないままだった。



「本人に会えたよ」



陽の言葉にあたしは大きく目を見開いた。



「本当に!?」



「あぁ。やっぱりあの3人は死んでなかったんだ」



それならあたしたちがここで見た歪んだ顔の3人は、生霊だったということだ。



それくらい強い想いが3人の中にあるはずだ。



「腕時計について聞く事もできた」



「それで!?」



「それが、奪った腕時計の行方がわからないままらしいんだ」



「どういう事……?」



あたしは首を傾げた。



あの映像の中では確かに3人が腕時計を奪っていた。



それなのにどこにあるかわからないなんて、変じゃないか。



「松田邦夫が嘘をついてるんじゃないの?」



「最初はそう思った。でも、どうやら本当の事みたいなんだ」



「どういう事?」



「3人は飯田アキラから腕時計を盗んだ。それを机の中に隠していたらしいんだ。



机の中から簡単に見つけられるし、飯田アキラが本気で怒って仕返しをすることもないだろうって考えだったらしい。でも……」



そこで陽は一呼吸おいた。



「気が付けばあの時計は机の中からなくなっていたんだ」



「なくなった?」



あたしは眉間にシワを寄せて聞き返した。



「あぁ。盗んだものを、更に盗まれたんだ」



そう聞いて、あたしは思わずポカンと口を開けてしまった。



盗んだものを盗まれる?



そんなことってある?



「冗談でしょ……」



「本当のことだ」



せっかく3人が生きているとわかって、松田邦夫には話を聞くことまでできたのに、結局なんの役にも立っていないことになる。



「とにかく、今日もしっかりと映像を見て探すしかなさそうなんだ」



陽の言葉にあたしは「わかった」と、力なく頷いたのだった。

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