第29話

朝8時になっていた。



あたしは大あくびをしながらベッドを下りて、着替えをした。



まだ頭はボーっとしている。



最近しっかり眠れていないから立っているだけで少ししんどい。



それでも今日はみんなと集まらないといけないので、どうにか家を出た。



昨日のスコールはあっという間に終わり、今は頭痛を起こしそうなほど天気がいい。



「咲紀!」



待ち合わせ場所のコンビニまで行くと、駐車場で健が待っていた。



「おはよう……」



力なくそう言うと、健があたしの顔を覗き込んできた。



「すっげークマだな」



目の下を指さしてそう言った。



「健もね」



お互いによく眠れていないというのがわかる状態だ。



「おはよう咲紀~」



コンビニから渚と海と陽の3人が出て来た。



それぞれジュースを手に持っている。



「みんなも疲れた顔してるね」



「さすがに、眠いな」



陽がそう言って欠伸をした。



「じゃぁさっさと行くか」



健がそう言い、ノートを開いた。



「誰に会いに行くの?」



ノートには4人分の住所が書かれている。



「飯田アキラか?」



陽が言う。



一番解決に近い人間は確かに飯田アキラだ。



でも、飯田アキラの家族に話を聞くのは気がひける。



飯田アキラが自殺だったとしたら、なおさらだ。



「とりあえず、五十嵐孝の家に行ってみない?」



あたしはイジメメンバーのリーダーである五十嵐孝を思い出していた。



五十嵐孝は飯田アキラに怯えているようにも見えた。



「今日はそうするか」



健がそう言い、あたしたちは移動を始めたのだった。

124 / 214


☆☆☆


五十嵐孝の家は歩いて20分ほどの山間にある一軒家だった。



とても古い一軒家で庭は草が生え放題だ。



表札も取られていて、人が住んでいる様子はなかった。



「引っ越したんだな」



家の周りをぐるりと回って、陽がそう呟いた。



「そうだね……」



いつまでも同じ場所に止まっているワケじゃないとわかっていたけれど、少し落ち込んでしまいそうになる。



五十嵐孝の家族は今どこにいるんだろう。



そう思った時だった、あたしたちの話声が聞こえて来たのか隣の家の玄関が開いた。



中から50代くらいの女性が出てきて、こちらへ顔を向ける。



「こ、こんにちは。あの、五十嵐孝さんのお宅って……」



黙っていては不審者になってしまうと思い、咄嗟にそう聞いていた。



すると女性は「あぁ、五十嵐さん?」と、可愛らしい笑顔を浮かべた。



「は、はい」



「五十嵐さんなら、何年か前に引っ越しをされたわよ? あなたたち、五十嵐さんの塾生?」



そう聞かれて、あたしは陽を見た。



「そ、そうです。中学校時代にお世話になってました」



咄嗟にそんな嘘をつく。



五十嵐孝は生きている?



塾生ってことは、五十嵐孝は今塾の講師をしているのか。



「そうだったのね、でもごめんなさい私も五十嵐さんがどこへ引っ越したのかわからないのよ」



「そ、そうなんですね。すみません。丁寧にありがとうございました」



陽はそう言い、頭を下げたのだった。


☆☆☆


「五十嵐孝は死んでない……」



歩きながら、健がそう呟いた。



「うん……」



あたしは頷く。



「仮に死んでいたとしても、ここ最近だ」



陽が言いなおす。



「じゃぁ、あたしたちが見たアレは一体何なの?」



渚が震える声でそう言った。



「死んでいないとして、幽霊じゃないとすれば……生霊」



海が答える。



生霊……。



あたしたちは足をとめ、互いの顔を見合わせた。



「じゃぁ、松田邦夫と武田陽太は?」



あたしは誰ともなくそう聞いた



「2人とも生きているかもしれない」



陽が言うと同時に、健がノートを開いていた。



「ここから近いのは松田邦夫の家だ」



「行こう」



健がそう言い、あたしたちはすぐに歩き始めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る