第24話
図書室から出て職員室へと向かうと、普段の3分の1ほどの先生しか出勤して来ていなかった。
その中に小藪先生の姿を見つけて、健は声をかけた。
「なんだお前ら、勉強か?」
小藪先生は驚いたようにそう言いながら廊下まで出て来てくれた。
「残念ながら勉強じゃないんです」
陽が真剣な表情でそう言った。
「そうか、じゃぁ部活か? わかった、お前ら1年生だけで肝試しでもしようって考えてるんだろ」
小藪先生は目を輝かせてそう聞いて来た。
無邪気なくらいに怖いことが好きな様子だ。
「その事で、大変なことになってるんです。先生の知っていることがあれば何でも知りたいんです」
陽の言葉に小藪先生は目をパチクリさせたのだった。
☆☆☆
あたしたちは学校の食堂へと移動してきていた。
まだ時間が早いから食堂内には誰もいない。
しかし部活をしている生徒たちのために、食堂のおばちゃんたちは今日も働いていた。
「で、話ってなんだ?」
「小藪先生は、旧校舎について知ってますか?」
陽がそう聞くと、小藪先生は一瞬身をのけぞらせて陽を見た。
「旧校舎って……椿山高校の旧校舎のことか?」
「もちろんです」
陽が大きく頷いた。
小藪先生は大きく息を吐き出して「あそこに興味を持つのはやめておけ」と、言った。
小藪先生も、近藤先輩の話を知っているのかもしれない。
「もう手遅れです」
陽がそう言い、小藪先生は目を見開いてあたしたちを見た。
申し訳ない気持ちになり、あたしはうつむいてしまった。
「まさかお前たち、旧校舎へ向かったのか!?」
小藪先生が聞いたことのないような大きな声でそう言った。
「……ごめんなさい」
陽が頭を下げてそう言った。
あたしも一緒に頭を下げた。
「そうか……だから1人いなかったんだな」
小藪先生は呟くようにそう言って、額に浮かんできた汗をハンカチでぬぐった。
「悪いが、先生にも手に負えない」
小藪先生はそう言い、左右に首を振って見せた。
「それはわかってます。自分たちでやってしまったことだし、自分たちでどうにかしなきゃと思ってます」
陽がそう言うと、小藪先生は「そうか……」と、少し安堵の表情を浮かべた。
先生でもあの旧校舎には関わり合いたくないのだ。
それでも、オカルト部のあたしたちが勝手な行動をしてしまったため、見捨てることもできない。
「知っている事ならなんで話す。だけど、身の危険を感じたらすぐに探し物をやめて海外へ逃げるんだ」
小藪先生は真剣な表情でそう言ったのだった。
☆☆☆
それから小藪先生は旧校舎について知っていることを教えてくれた。
それは近藤先輩から聞いた話と全く同じものだった。
しかし、先生は旧校舎の歴史について詳しかった。
旧校舎が使われなくなったのは今から15年前の事。
新校舎が立てられる計画が始まったのは今から20年前の事だったようだ。
計画が始まってから5年後にこの新校舎はできたことになる。
建てる場所も大きさも全く違うから時間が必要だったようだ。
「俺がこの学校に来たのは10年前だから、詳しい事はよくわからない。でも、卒業生たちのアルバムなら置いてあるぞ」
「アルバム、見て見たいです!」
陽がすぐにそう言った。
いつの年代の生徒たちなのかわからないけれど、その顔はわかっているのだ。
根気強く探して行けば、きっとたどり着くはずだ。
あたしたちは小藪先生に連れられて職員室へと戻ってきていた。
職員室の奥に置かれている棚を開けるとそこにはズラリとアルバムが置かれていた。
すごい数だ。
今は藍色の表紙に変わっているが昔は茶色の表紙だったようで、先生はその1つを手に取った。
「これが16年前のアルバムだ。旧校舎を使っていた生徒たちが乗っている」
そう言われあたしたちはアルバムをめくりはじめた。
とても古い写真だけれど、ちゃんと生徒たちの顔はわかる。
「卒業した時のクラスがわかれば簡単に探せるのにな」
海が舌打ちをしながらそう呟いた。
あたしたちが知っているのは1年生の時のクラスだけなんだから、文句を言っても仕方がない。
それからアルバムを持って図書室へ移動し、手分けをして探す事になった。
長い歴史を持つ椿山高校のアルバムは気が遠くなるような冊数だった。
それでも、せめて彼等の名前だけでも知りたかった。
「どこにもいねぇな」
アルバムを半分も見終わる前に海はそう言って大きく息を吐き出した。
「ちょっと、全然調べてないじゃん」
渚が頬を膨らませて文句を言った。
「調べたって。このアルバム半分な」
「せめて一冊分くらい調べなさいよ」
海にこういう地味な作業をやらせるのは間違いだったかもしれない。
そう思った時だった。
「あ!!」
と、健が声を上げたので、2人の言い合いは止まった。
「これ、見て見ろよ!」
興奮しながらアルバムを指さす健。
4人でそのアルバムを覗き込んでみると、1年3組の教室でイジられていた男子生徒の写真が目に飛び込んできた。
「うそ、あった!?」
渚が目を見開いてそう言った。
「こいつで間違いないよな?」
健が陽に写真を見せる。
「あぁ、間違いない」
陽はそう言い、持っていたアルバムを閉じた。
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