第21話
一階の広間へと戻ってきた時、丁度時計が2時を刻み始めた。
旧校舎の寒気同様に馴れない音。
耳を塞いでどうにかやり過ごしてた後、あたしたちは周囲を見回した。
いつもならここで周囲が明るくなるのに、今日はなんの変化も現れない。
「今日はあいつら出て来ないのか?」
健が周囲を見回してそう言った。
「うそでしょ? 自分たちだけで探せってこと?」
あたしはそう言った。
なにを探せばいいのか全く分かっていない状態で探すなんて、絶対に無理だ。
そう思った時だった、不意に1年3組から光が漏れてきて、あたしたちは一瞬息を飲んだ。
「記憶が再生されはじめた!」
陽がそう言い、1年3組へと走る。
あたしたちもその後を追いかけた。
1年3組の教室は明るく照らしだされていて、教室は生徒たちで埋まっていた。
今は国語の授業を受けている最中なのか、教卓には男性教師が立ち、黒板にも文字がずらりと書かれていた。
「授業を受けてる……」
健が驚いたようにそう呟いた。
「ここは学校なんだから普通でしょ」
そう言うと、「そうなんだけどさ、今までそんな雰囲気じゃなかったから驚いたんだろ」と、笑った。
確かに、健の言う通り旧校舎で授業を受けているという絵は、今のあたしたちからかけ離れているかもしれない。
「2人とも、しっかり見ないと」
渚にそう言われて、あたしたちは口を閉じた。
教室の中にはいつもの3人の姿があるが、真面目に勉強をしている感じではなかった。
教科書に隠して漫画を読んでいたり、机に突っ伏して寝ていたりする。
まぁ、この辺は今の高校生ともあまり変わらないかもしれない。
授業でやる気が出ないのはどの時代でも同じだったみたいだ。
その時だった教卓に立っている先生が一番後ろの席の生徒を指名し、教科書を読むように指示した。
当てられた生徒に視線を向けると、それが昨日も見た大人しい男子生徒であることがわかった。
男子生徒は困惑の表情を浮かべ、おずおずと席を立ち上がる。
瞬間、教室内から「しっかり読めよ!」というヤジが飛んできた。
その声に笑いが起きて、1人立っている男子生徒は教科書に顔を隠すように俯いた。
「うわ、典型的ないじられキャラ」
渚が小さく呟いた。
本当にそうみたいで、彼がボソボソと教科書を読み始めると、教室内に大きな笑い声が溢れた。
「おいおい、なに言ってるか聞えねぇぞ!」
3人組の1人がそう声をかける。
男子生徒は一生懸命声を張っているけれど、それでも普通に会話をするよりも小さいくらいだ。
教卓に立っている先生には聞き取れていないようで、時折首を傾げて教科書を見ている。
男子生徒は最後まで読み終えるとすぐに席に座った。
「え、あぁ、読み終わったのか」
先生は困ったように頭をかいてそう呟き、黒板へ向かう。
「全然聞こえなかったじゃなねぇかよ!」
「先生、あいつに読ませたら授業になりませーん!」
ふざけた声が飛び交い、教室中はまた笑い声に包まれた。
先生はどうにか鎮めようとしているけれど、一度盛り上がってしまうとなかなか収まらない。
そうこうしている内にチャイムが鳴りはじめて授業は終わってしまった。
「なんだよ、探し物のヒントなんてどこにあるんだよ」
休憩時間が始まってしまい、陽はそう呟いた。
「探し物だもん、授業中より休憩時間の方が重要なんじゃないかな?」
あたしは教室内に視線を向けたままそう言った。
「移動教室中に何かを忘れたりとか、落としたりとか、ありそうだよね」
渚はそう言い、窓から身を乗り出すようにして映像を見ている。
すると、いつもの3人が大人しい男子生徒の周りへと集まって行くのが見えた。
男子生徒は席に座ったままで顔を上げようともしない。
「お前、声が小さすぎて全然聞こえなかったぞ!」
「先生だって困ってたどうが、もっと声出せよ」
「マジで、声帯なくしたんじゃねぇの?」
男子生徒をからかっては笑い声を上げている。
周囲の生徒たちはそれを見て笑っていたり、興味がなさそうな顔をしている。
「いつの時代にもイジメはあるんだな」
陽がため息交じりにそう呟いた。
イジメまで行っていないようにも見えるけれど、それは当人の心の問題だからあたしたちにはかる事はできなかった。
「ハッキリしねぇからイジメられるんだ」
海が吐き捨てるようにそう言った。
どちらかと言えばみんなから恐れられるような海には、この状況が理解できないのだろう。
しばらく休憩時間の風景が流れていたかと思うと、不意に明かりが消えた。
映像はこれで終わりか……。
「今回もヒントらしきものは何もなかったね」
あたしはそう呟いてライトを付けた。
「それでも探さないとな。3組の教室を探したい所だけど、昨日探したもんな。今日は2組をさがしてみるか」
健がそう言い、隣の教室を指さした。
隣の教室は全く関係ないように思えるけれど、探し物もわからなければ、探す場所だってわからないのだ。
とりあえず行ってみる価値はあるかもしれない。
そう思い、あたしたちはぞろぞろと隣の教室へ足を進めた。
2組の教室は机がほとんど運び出されてしまっている状態で、調べる所はとても少なさそうだ。「これなら簡単に探し出せるな」
海が言う。
「冗談言わないでよ。何を探すのかもわかってないんだから」
渚がすぐにそう答えた。
「それっぽいものを見つければいいだろ」
海はそんな事を言いながら教室内を探し始めた。
あたしは昼間考えた学生が持っていそうなものを頭に思い浮かべて探し物を始めた。
この時代だと生徒手帳とか、万年筆とかかな?
あたしは高校の入学祝いに図書カードを貰ったけれど、昔の人は万年筆が多かったと聞いたことがあった。
少し高級な万年筆とかだったら、宝物にもなる。
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