第20話

旧校舎へ足を踏み入れると相変わらずの冷気が体に絡み付いて来て、身震いをした。



この寒さは何度経験しても馴れない。



生徒玄関を入ってすぐ左に曲がり、階段を上がり始めた。



ライトで周囲を照らしていても気味の悪さに変わりはなかった。



階段を一歩上がるたびに外から見た人影を思い出す。



「ねぇ、教室から誰かが出て来たらどうするの」



あたしの後ろを歩いていた渚が不安そうな声でそう言った。



「何をしてたのか聞けばいいだろ」



海が当然、という雰囲気でそう返事をした。



「それってさ、人間だった場合の話だよね?」



渚がそう言い、一瞬沈黙が流れた。



相手が人間以外の何かだったらどうするか?



そんな質問、誰も答えられるわけがなかった。



誰も何も言わないまま、2階の教室が見えて来た。



知らない間に何度も唾を飲み込む。



せめて、普通の人間でありますように。



そんな気持ちで廊下を進んでいく。



「外から見たのは一番奥の教室だったよな……」



海がそう言い、「あぁ」と、健が返事をした。



男子たちの歩調も、心なしかゆっくりになっている気がする。



怖くないわけがないんだ。



しかし、廊下を進み突き当りが見えた時、あたしの胸に違和感が膨らんでいった。



それは一番前を歩いていた海にも言える事で「なんだよこれ、どうなってんだよ」と、ブツブツと呟く声が聞こえて来た。



「ちょっと、どうしたの?」



渚がそう言ったとき、海が足を止めたのであたしたちは全員その場に立ち止まることになった。



「海、なにが……」



渚が途中で言葉を切った。



後ろからでも見えていたのだろう。



「なに、どういう事?」



すかさず混乱した声が聞こえて来る。



「俺にだってわからねぇよ。でも……教室のドアがない」



海が少し震えてそう言った。



そう。



外から見た教室の場所にあったのは、ただの壁だったのだ。



「冗談だろおい……」



健が手を伸ばして壁に触れる。



どこかに隠し扉でもあるのかもしれないと思って周囲を探してみたけれど、木製の壁が広がるはかりだった。



押しても引いてもびくともしない。



「場所は、ここであってるよな?」



陽が周囲をみまわしてそう言った。



「あってるよ」



あたしは頷く。



確かに外から見た教室はここだった。



この中で人影が動いていた。



思い出しただけでも鳥肌が立った。



「ねぇ、もう行こうよ」



渚が海の手を掴んでそう言った。



「ん、あぁ……」



海は陽を見る。



「何もないなら調べようもないよな」



陽はそう言い、小さく頷いて廊下を引き返し始めたのだった。

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