第17話
朝10時頃、あたしたちはいつものファミレスに集合していた。
丁度昼が近くなってきたので、料理の匂いに食欲が刺激される。
「今までの事をまとめるためにノートを用意してきた」
陽がそう言い、大き目の鞄からノートとペンケースを取り出した。
さすが、一番栞のことを想っているだけあって用意がいい。
「まずは初日に旧校舎へ行ったとき、3人の生徒たちは広間にいた」
そう言いながらペンを走らせる。
お世辞にも上手だとは言えない文字が並んでいく。
「全員顔は歪んでいて、ずっと何かを探していた」
「だけど教室内にいた時は顔が歪んでなかったよね?」
陽の手元を見ながら渚が口を挟んだ。
「あぁ、それも自分なりに考えてみたんだけど……」
「広間で見たのは幽霊。教室で見たのは幽霊たちの記憶」
あたしがそう言うと、陽は驚いたように目を丸くした。
「俺も、そう言おうと思ってた」
「うん。あたしもそう考えてたの」
どうしてそんな差が出るのかわからないけれど、記憶として止まっているものと今の彼らの姿を直接見るのとでは違うということだ。
「へぇ、そうなんだ……?」
渚は感心したように何度も頷く。
「勝手な想像だけどね」
あたしが言うと、
「わかってるよ」
と、返された。
「後は時間。2時に探し物が始まって、3時に終わる」
「それって、別に終わらせる必要ねぇんじゃねぇの?」
そう言ったのは海だった。
海はさっき注文したアイスカフェオレを飲んでいる。
「まぁ確かに。映像が途切れても探し続けることはできるかもしれない」
陽はそう言い、頷いた。
「でもそれは探し物が何か、ちゃんとわかってからじゃないとね」
あたしはそう言った。
「そう、そこが問題だ」
陽はそう言って一旦ペンを置いた。
「あいつら俺たちと同じ学生だよな? だったら学生が忘れたり、無くしたりしそうなものを書いていくか」
健がそう言い、ペンとノートを自分の方へと引き寄せた。
「あたしたちが忘れるものっていえば、スマホ?」
渚がそう言いながら首を傾げた。
「それは今のあたしたちでしょ? 旧校舎を使っていた時代にスマホはないよ」
「じゃぁ……なんだっけ? ポケベルっていうやつ?」
瞬きを繰り返しながら渚が言った。
「ポケベルってなんだよ?」
海が聞き返す。
「はぁ、知らないの? 昔の人が使ってた通信機械だよ。公衆電話を使うんだってさ」
渚は海を見下したようにそう言った。
「だったら最初から公衆電話で連絡すればいいじゃねぇか、意味わかんねぇ」
そう言い、ズズズッとカフェオレを飲みほした。
「話を戻すけど」
咳払いをして陽が言った。
「他に俺たちが忘れそうなものはないか?」
「傘とか、手帳とか」
あたしは指折り数えながらそう言った。
「そうだな。そういうものなら昔も今も変わらない」
健はそう言い、ノートに書いていく。
「それなら勉強道具とか、課題もそうだな」
そう言ったの海だった。
「課題忘れは海だけじゃん」
渚がそう言い、海がふくれっ面をする。
「2人とも、話が進まないんだけど」
あたしが注意すると、渚と海はすぐにおとなしくなった。
「ペンとか消しゴムはすぐ無くなるよなぁ」
健はそう呟いた。
「そうだな。だけどそういうものは除外していいと思う。もっと大切で、死んでからもずっと探し続けるようなもの」
陽に言われて、みんな黙り込んでしまった。
あたしにも宝物と呼べるものはあるけれど、それが昔の男子高校生に当てはまるとは思えない。
「わからないなぁ」
しばらく考えたのち、渚がそう言って唸り声を上げた。
「なにせ俺たちとは時代が違うからなぁ」
海がそう言う。
「そうだよね。せめて同じ時代の高校生の事なら、少しはわかるのに……」
彼らが何年前に椿山高校に通っていた生徒なのかもわからないのだ。
「一旦家に戻って、親たちに話を聞いてみてもいいかもしれないな」
健がそう言い、ペンとノートを陽に返した。
「昔の高校生が何を持っていたのかを?」
あたしはそう訊ねた。
健は大きく頷く。
「あぁ。俺たちだけで考えるのは限度がある」
それがいいかもしれない。
それからあたしたちは昼食を終わらせて、それぞれ家に戻って行ったのだった。
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