第15話

柱時計の音が鳴りやんで目を開けると、周囲はすでに明るくなっていた。



ハッとして顔をあげると、昨日見た男子生徒たち3人が現れている。



「……っ」



あたしは後ずさりをして幽霊たちから距離を置いた。



昨日は金縛りにあったように動くことすらできなかったけれど、今日は少し違う。



幽霊たちは柱時計の周りを行ったり来たりしながら何かを探し続けている。



「お前らは何を探してるんだ?」



そう言ったのは陽だった。



陽は青ざめた表情をしているが、しっかりとした口調だ。



なんとしても探し物を見つけ出して栞を助け出したいのだ。



あたしはそんな陽を見て足にグッと力を込めた。



怖がってばかりいちゃダメだ。



1人ずつ消えてしまう前に、栞を返してもらわなきゃ。



恐怖で鼓動は早くなるが、どうにか幽霊たちを見る事ができた。



幽霊たちは陽の声に反応しない。



「こっちから話かけることはできないのか……」



健がそう呟いた。



幽霊たちとコンタクトは取れない。



幽霊たちが何を探しているのか直接聞く事はできないということか。



「とにかく、こいつらの行動をよく見ておこう」



海がそう言った。



探し物の正体がなんなのか、観察することでしか知ることができないようだ。



あたしたちは呼吸をすることも忘れて幽霊たちの行動を見ていた。



が、幽霊たちは昨日と同じように広間を歩き回るばかりで探し物のヒントになりそうなものはなにもない。



どうすればいいの?



そう思った瞬間、突然明かりが消え、幽霊たちの姿も消えたのだ。



「な、なに!?」



渚が慌ててライトをつけた。



回りを照らしてみても、幽霊の姿は見えない。



「なんだよ、今ので探せってことか?」



海が苛立ったような口調でそう言った。



そんなの無理に決まってる!



焦る気持ちが湧いて来た時だった。



突然1年生の教室に明かりがともったのだ。



一瞬唖然としてその場から動けないあたしたち。



「行こう」



我に返った陽が大股で教室へと歩き出す。



あたしたちは慌ててその後を追いかけた。



明かりがついているのは一番奥にある1年生の教室だった。



順番に言えば1年3組か。



そう思って教室の表札を見てみると、ほとんど消えかけていた表札がしっかりと書かれていたのだ。



1年3組。



たしかにそう書かれていて、あたしは瞬きを繰り返した。



よく見て見ると、蜘蛛の巣やほこりも見当たらない。



「これってもしかして……」



幽霊たちの記憶を見ているの?



そう言おうとした時だった、「おい、見て見ろよ」と、健に言われ、あたしは教室の中へ視線を向けた。



瞬間、驚いて後ずさりをしていた。



1年3組の教室内には沢山の生徒たちがいたのだ。



生徒たちは机の上にお弁当箱を出していたり、友達と会話をしていたりと様々だ。



まるで自分たちの昼休憩の光景を見ているようだ。



「嘘でしょ……」



渚が震える声でそう呟いた。



やっぱり、この光景は幽霊たちの記憶だ!



だとすれば、やっぱり幽霊たちの動きをよく観察することで探し物が見つかるんだ!



「見ろよ、あいつらもいる」



陽が教室の奥でおしゃべりをしている男子生徒3人を指さしてそう言った。



その生徒たちを見た瞬間、顔の歪んだ幽霊たちと姿が重なった。



顔の輪郭もしっかりと見えているが、全体的な体格や雰囲気が同じだ。



本来の姿はこちらなのかもしれない。



あたしは3人の行動を目に焼き付けるようにジッと見つめた。



3人はクラス内でもとても仲がいいようで、さっきからふざけ合っている。



そんな中、すぐ近くに1人で机に座っている男子生徒がいる事に気が付いていた。



お弁当を広げているが、食べるペースも随分と遅く、ずっと俯いたまま顔も上げない。



3人は時々その男子生徒に話かけられているが、ほとんど無視されているみたいだ。



もしくは、男子生徒が返事をできないような事を言っているのかもしれない。



見たところ、男子生徒の方が立場は弱そうだし。



「教室の中に入ってみるか」



そう言ったのは陽だった。



あたしは目を見開いて陽を見る。



「ちょっと、本気?」



渚は子供のようにイヤイヤと左右に首をふる。



「嫌なやつは来なくていい」



陽は渚へ向けて冷たくそう言い放つと、1人で教室へと足を踏み入れた。



陽が教室へ入って行っても、誰も見向きもしない。



きっと陽のことが見えていないんだろう。



幽霊が自分の記憶を見せているだけなら、教室に入って行っても特に問題はないのかもしれない。



もっと近くで3人の行動を確認してみることで、ヒントも出て来るかもしれない。



そう思ったあたしは教室のドアの前に立った。



陽はどんどん教室の奥へと足を進めている。



大丈夫、きっと、大丈夫。



自分自身にそう言い聞かせて、足を一歩前へ踏み出した。



教室に入ると自分の体が蛍光灯で照らしだされるのがわかった。



しかし、床を見てもあたしの影はどこにもなかった。



ここで実在していないのは、あたしの方ということか。



「咲紀、大丈夫か?」



後ろから来た健にそう声をかけられて、あたしは頷いた。



「大丈夫だよ」



怖がっていた渚も海に連れられて教室の中に入ってきている。



みんなで手分けをして探せばきっと、すぐに見つかるはずだ。

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