第12話

「旧校舎へ行った事のあるのは昔のオカルト部の先輩たち5人だ。



5人が高校2年生の頃、旧校舎は危ないという噂を聞きつけて肝試しをすることになった。丁度夏休み中で、君たちと同じような感じだったんだろうな」



近藤先輩は思い出すようにそう言った。



「5人は旧校舎へ入って行き、広間を見つけた。そこに柱時計があったんだ」



「確かに、ありました」



健が頷きながらそう言った。



「時刻は夜中の2時前。柱時計は壊れていて動かない。もっと先にある教室を見て回ろうとしたとき……時計が突然2時を知らせたんだ」



あたしは脳内にまで響き渡るあの音を思い出していた。



思い出すだけでメマイを感じる。



「君たちも言っていたように、彼らは昔の制服を着た男子生徒たちの幽霊を見たんだ。そして言われたんだ『お前たちの大切なものを奪った! 返してほしければ俺たちの大切なものを探してくれ!』ってね。



慌てて旧校舎から逃げて出ると、メンバーが1人いなかったそうだ」



あたしたちに起こった出来事を全く同じだ。



あたしは息をすることも忘れて近藤先輩の話に耳を傾けていた。



「それから毎晩、先輩たちは旧校舎へ向かった」



「毎晩!?」



渚が思わず大きな声を上げた。



あたしも同じ気持ちだった。



毎晩あんな気味の悪い場所にいくなんて、あたしにはきっとできない。



「そう。途中で探すのをやめる気にはならなかったそうだ。柱時計が鳴る時間が近づくにつれて、自分から旧校舎へ行きたいという気持ちが抑えられなくなるんだ」



「嘘だろ……」



海がそう言い、左右に首をふった。



栞が元気でここにいてくれれば、もう絶対に行きたいなんて思わないのに……。



「きっと、なにか特別な力がそんな気分にさせてたんだろうな。とにかく、先輩たちは毎日旧校舎へ向かい、男子生徒の幽霊たちが探しているものを一緒に探した。



だけど、何を探しているのかもわからない状況では探し物なんてできない。あっという間に時間は過ぎていき、一週間が経過した時だった……。



いつも通り旧校舎へ向かって探し物を手伝っていたのに、気が付けばメンバーの1人がまたいなくなっていたんだ。5人が4人。4人が3人。そんな風にどんどん数は減っていったんだ」



近藤先輩は深刻な表情でそう言った。



人数が減って行く……。



その情報にあたしは膝の上で自分の手をグッと握りしめていた。



次に栞のようになるのはあたしかもしれない。



そんな不安が一気に押し寄せて来る。



「時間が経てば経つほどメンバーは少なくなっていき、ついに先輩1人だけ残ることになってしまった」



「たった1人で旧校舎に行っていたんですか?」



健がそう聞いた。



「いや、先輩は1人になったその日の内に海外へ飛んだんだ。俺にこの話を残してな」



近藤先輩はそう言い、オレンジジュースを飲んだ。



「海外留学って、もしかして旧校舎から逃げるためですか?」



そう聞くと、「おそらくはね」と、近藤先輩は頷いた。



そこまでしないと逃げられないなんて、絶望的だ。



あたしは面々を見回した。



時間がかかればかかるほど、みんなが1人ずついなくなるかもしれない。



そんなの、耐えられるわけがなかった。



「探し物のヒントはなにかないんですか?」



陽が重要な部分を質問した。



近藤先輩は難しそうな顔をして「それがわかっていれば、先輩も海外になんていかずに済んだんだろうけどな」と、答えた。



ヒントになるようなものはなにもない。



自分たちで探し出すしかないようだ。



あたしたちは顔を見合わせた。



これから毎晩旧校舎へ向かい、探し物を手伝う。



時間がかかればかかるほど人数は減って行く。



その事実に誰もが無言になってしまっていた。



渚は青ざめた顔でうつむいて、顔をあげようともしない。



だけどただ1人、栞の事を想っている陽だけは強い瞳で窓の外を睨み付けていたのだった。

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