第8話
旧校舎は本気で危ない。
それが理解できたあたしたちはそれぞれの家に帰ってきていた。
布団に入って目を閉じると、旧校舎で見た顔の歪んだ男子生徒たちを思い出し、身震いをした。
本当に幽霊を見てしまった。
日頃から見て見たいと思っていたものの、本当に見るとは思っていなかった。
しかも3体も。
「どうしよう、お祓いとか必要なのかな」
なんの準備もないままに、ただの遊びで幽霊に会ってしまうのは危険な行為だと、もちろん知っていた。
幽霊なんていないと心のどこかで思い込んでいたのが、今回の結果に繋がってしまったんだ。
あたしは布団を頭まで被り、ギュッと目を閉じた。
もう二度と旧校舎には近づかない。
絶対に、なにがあっても。
この時はまだ、本気でそう思っていたのだった……。
☆☆☆
翌日。
目が覚めるともう昼が近かった。
布団を被って変な体制のまま眠ってしまったので、体が痛い。
ベッドから下りてテーブルに置いてあるスマホを確認すると、渚からのメールが届いていた。
《栞、大丈夫だったかな? 今日一緒に栞の家に行ってみない?》
「あぁ、そっか……。栞、ちゃんと家に帰れてるかな?」
旧校舎の中にはいなかったのだから、家にいるはずだ。
連絡を取ってみるのが一番早いけれど、あたしはまず渚と合流するとこに決めた。
1人で家にいると昨日の事を色々と思い出してしまいそうで、怖いのだ。
あたしは2時頃から渚と会う約束をして、準備を始めたのだった。
☆☆☆
今日も相変わらず夏の熱さが続いていた。
こんな日は3人でプールや海に遊びに行きたい気分だった。
「おはよう咲紀!」
待ち合わせのコンビニまでやって来ると、Tシャツに短パン姿の渚が片手を上げて来た。
「おはよう。今日も暑いねぇ」
容赦なく降り注いでくる太陽の熱に、あたしは額の汗をぬぐった。
「本当だよね、何か冷たいものでも買っていく?」
渚はそう言い、アイス売り場へと足を向けた。
「栞の家に持って行くまでに溶けちゃうよ?」
ここからまだ少し距離のある栞の家を思い出し、あたしはそう言った。
「じゃぁ、今自分たちで食べる分だけ」
渚は最初からそのつもりだったようで、好きなアイスを手に取ってさっさとレジへ持って行ってしまった。
あたしは呆れながらも、確かにこの暑さの中歩くのは大変だと思い、アイスを選らんだ。
栞にはお菓子を買って持って行くことにした。
2人でアイスを食べながら歩いていると、なんだか夏休みという雰囲気がしてくる。
「日焼けしちゃうねぇ」
渚はそう言いながら自分の腕を見る。
まだまだ白いけれど、こうして歩いているだけで小麦色になりそうだ。
アスファルトの照り返しに顔をしかめながら、アイスを口に含む。
甘いミルクの味が口いっぱいに広がって元気が出て来るようだった。
「栞、置いて逃げちゃったこと怒ってるかな?」
不意に渚が不安そうな表情を浮かべてそう言った。
「どうかなぁ……」
栞が一緒に逃げてきていなかったことを、誰も気が付いていなかったのだ。
1人で旧校舎に置き去りにされた気分を考えると、ため息が漏れた。
「怒ってるだろうね」
だからこそ栞は1人で帰ってしまったんだ。
朝になっても連絡は来ていなかったし、きっと怒っている。
「謝らなきゃね……」
渚が気まずそうにそう言う。
食べていたアイスが溶けて地面に落ちていく。
コンクリートの上で力なく広がって行くアイスまで、輪郭の歪んだ男子生徒たちに見えてしまった。
「早く行こう」
あたしはそう言い、早足に歩き出したのだった。
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