第5話

女子3人で騒いでいると、あっという間に時間は過ぎていく。



夕飯を食べてお風呂に入って好きな人の話をして、そしてあたしの両親がすっかり寝静まった頃。



あたしたちは足音を忍ばせて部屋を出ていた。



3人分の呼吸がやけに大きく聞こえて来る。



細心の注意を払いながら階段を下りて玄関を開ける。



鍵を開ける時の音に心臓が止まりそうになる。



どうにか外へ出て家から離れると、あたしたちは顔を見合わせて小さく笑った。



それぞれの手には愛情が詰まったお弁当と、懐中電灯。



それになにか決定的なものが撮れるかもしれないと期待して持ってきたデジタルカメラがあった。



「緊張してきた」



男子たちとの約束場所に近づくにつれて渚が言った。



渚だけじゃない、あたしと栞も少し緊張してきていた。



こんな時間に男子に会う事なんてないし、きもだめしということも緊張の要因になっていた。



「あ、いた」



栞が前方に立っている男子たちを見つけてそう言った。



コンビニの明かりの前に3人の姿を見つけて、あたしたちは小走りで近づいて行った。



「どうしたんだよ、その荷物」



あたしたちを見て一番にそう言ったのは健だった。



「お弁当作って来たの。みんなお腹すくかもしれないと思って」



そう言い、手に持っていた荷物を見せた。



「マジで? 手作り?」



健の表情が明るくなる。



その顔にドキッとしてしまう。



自分の彼氏ながら、いつもカッコいいなと思う。



「そうだよ、みんなの手作り」



「やったな海。丁度腹が減ってコンビニで何か買おうかと思ってた所だったんだ」



陽がそう言い、海の肩を叩いた。



「おぉ。お前ら案外女子力高いんだな」



海はなぜか照れたようにそう言った。



「じゃぁ、きもだめしの前に食べようか」



あたしはそう言い、6人で近くの公園へと向かったのだった。


☆☆☆


腹ごなしを終えたあたしたちは、旧校舎へ向かって歩き始めていた。



地蔵山までは徒歩で10分ほどだ。



真夏といえど夜中は肌寒くて、歩いていると丁度いいくらいの体感温度になって来る。



「うわ、見えて来た」



みんなではしゃぎながら歩いていた時、栞がそう呟いた。



会話が止まり、前方に見えて来た旧校舎に一瞬息を飲む。



古い木造の建物に山から伸びて来たツタが絡まり、薄暗い雰囲気を醸し出している。



「これ、雰囲気だけでも十分だな」



健がそう言い、軽く身震いをした。



強い風が吹いて、まるであたしたちの背中を押すかのように足が前に出た。



山の木々がざわめく中、旧校舎の門は大きく口を開いてあたしたちを待ち構えているように見える。



「ねぇ、これ本当に行くの?」



栞が陽の腕を掴んでそう言った。



「ここまで来たんだから、もう少し前まで行ってみよう」



陽はそう返事をして足を進める。



校舎の入り口に近づけば近づくほど肌寒さが加速していく。



「やばいって、これ……」



渚が呟く。



「今、何時?」



入口の近くまで来て健が誰ともなくそう聞いた。



あたしはスマホを取り出して時間を確認した。



「1時40分」



「もうすぐ2時か。いい時間帯だな」



「って、本当に中に入るつもり?」



あたしは思わずそう聞いていた。



ここに車では旧校舎の中を探検する気満々だったけれど、目の前まで来るとその雰囲気に圧倒されてしまう。



「建物の外を回るだけにしておこうか?」



健の言葉にあたしは小さく頷いた。



せっかく幽霊を見る事ができるチャンスだけれど、さすがに怖気づいてしまった。



「じゃぁ、写真だけ撮っておこうか」



栞がそう言ってカメラを旧校舎へ向けたその時だった。



ギッ……ギッ……。



と、微かな音が聞こえて来た気がして、あたしは息を止めた。



「今の音って……?」



そう聞くと、誰もが旧校舎へ向いたまま目を見開いている。



みんなにもさっきの音が聞こえたみたいだ。



「聞こえたよな、みんな?」



健が聞くと、全員が頷く。



「今のって、旧校舎の中から聞こえて来たんだよね?」



あたしがそう聞くと、健は「たぶんな」と、頷いた。



もう1度耳をすませてみるけれど、木がキシムような音は聞こえて来ない。



今は風の音と葉が揺れる音だけが聞こえてきている。



「中に入ってみるか」



そう言ったのは海だった。



「本気!?」



渚が目を丸くして聞き返す。



「あぁ。夜の雰囲気に騙されてるだけだって。先輩たちでも入った事がないんだろ? それを俺たちがやり遂げたら自慢になるぞ」



海はそう言いながら、躊躇することなく門の中に入って行く。



「どうする?」



あたしは健に聞く。



「海を1人で行かせるわけにもいかないだろ」



健はそう言い、海の後を追いかけたのだった。

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