第3話

数日後


「で、なんでこんなとこにいるの? 俺たち」

 サトルが寝ぼけた顔で尋ねる。


「仕方ないでしょ、指名依頼なんだから」


 二人は今小型のフェリーに乗って樹島(いつきしま)に向かっている。


 樹島は瀬戸内海にぽつんと浮かぶ有人島で、大部分が山地で平野は狭い。冬になるとアビ(シロエリオオハム)が飛来し、島の北側の海域が「アビ渡来群游海面」として国の天然記念物に指定されている。集落は北側に一つ、東側に一つあり、人口は三十世帯約五十人だという。


「で、なんでそんなとこに?」


「出たんだって」


「なにが?」


「身体変化して死ぬ病気」


「は? なんだそりゃ?」


「知らないわよ私だって!」


「うーん、どうせあれじゃないか? SNSかなんかで拡散したフェイクじゃないか?」


「だといいんだけどねえ。ま、私たちに調査依頼が来たから仕方ないわよ。で、表向き私達キャンパーだからね、うまく合わせてよね」


「キャンパーでこの格好はないだろう?」


「いいのよなんでも。どうせ島の人間なんてよそ者が何やってるかなんて排他的に見るだけなんだから、どんな格好でもおんなじよ」


「いや、でもなあ。さすがに二人ともピザ屋の宅配の格好はないんじゃないか? もっとこうカッコいい……」


「っるさいわねえ。あんたのカッコいいてどんなのよ? 嫌なら着いたら着替えればいいでしょ! あ、見えてきた。あれが樹島よ」


 マナミが指さした先には小さな島が見え、鳥が数十羽島の上を飛んでいる姿が見えた。


 ――――――


 島の西側に砂浜があり、マナミはそこに船をつける。宿など期待できないため二人はキャンプ道具を船から降ろし荷物をテントに運び込む。


 二人が準備を終えるころ、薄暗くなってきた海辺の東側から女性が現れる。


「あなた方ですか? アヤカさんからの……」


「はい。依頼を受けた者です」


「よかった。この時間に来られるってことはそうだろうと思ったんですけど。あ、私はサエと言います」


 そう言って女性はお辞儀をするとアヤカさんから子どもが二人そちらに行くが優秀な二人なので気にしないでほしいと頼まれたと伝えられた。


「あ、どうも。サトルです」

「マナミと言います。よろしく。ん? 子どもって?」


「でもお二人とも本当に大丈夫なんでしょうか?」

 女性は心配そうにマナミに聞く。


「えっと、その前に一ついいですか?」

 サトルがサエの方に歩いていきながら質問をする。


「はい」

「サエさん、その耳って本物ですよね? 異世界物のエルフみたい」

「は? な、なに言ってるんですか!?」

 女性は驚いて顔を赤くしながら自分の頭を押さえる。


 アヤカさんによると最近この島で謎の奇病が発生しているらしい。最初は咳が出る程度の軽い症状だが徐々に体が衰弱していき、それぞれの人に固有の症状が現れ、最終的に死に至るという。サエは自分はなぜか耳が尖ってきたのだという。


 そしてこの病気は今のところ島内でしか発生していない。しかも島の出身者しか発症しないのだそうだ。そのため島民たちは怯えている。


 現在、島の住民のほとんどがこの奇病にかかっており、アヤカに聞いていた情報とは少し違っていて「変わった人間」をイレイスするという事ではないらしい。

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