第27話 ギギ・バルーン 遠話の悪魔少女

「ダダ、そっちの悪魔少女狩りはうまくいっている?」とギギ・バルーンは遠話の異能を使って言った。 

「姉さんか。うまくやっているよ。もう何人もラシーラ村の悪魔少女を処刑したし、10人以上は地下牢に送った。蝶の毒の異能を持つ神聖少女騎士を殺されたけれど、バイオリンがすごく上手な音符の悪魔少女を配下に加えた。あとひとり、回る向日葵亭っていうレストランのウエイトレスを殺せば、ほぼ任務完了だよ」とダダは答えた。

「正義の悪魔少女にしたのはひとりだけなの?」

「そうだよ。あとはみんなぶち殺してやった。ははははは」

「やり過ぎて、地元の反感を買ってない?」

「多少はそういうこともあるかな。でも平気だよ。ボクには悪魔少女を殲滅するという信念がある。教皇の甥という強い立場もある。村長の娘も悪魔少女だったから、殺してやった」

「それをやり過ぎと言うのよ。悪魔少女は殲滅しちゃだめよ。教皇猊下に忠誠を誓わせて、できるだけ神聖少女騎士にするのよ」

「姉さんはうるさいなあ。ボクにはボクのやり方があるんだよ」

「まあいいわ。がんばりなさい」

「がんばってるよ。じゃあね」

 ギギはメガホン型になっていた顔の変身を解除した。異形から元に戻れば、彼女は長いストレートの銀髪を持つ長身の美少女だ。


 ギギ・バルーンは17歳。教皇の姪で、ダダの姉だ。

 彼女は第100悪魔少女狩り小隊長であり、自らも遠話の悪魔少女で、神聖少女騎士であった。

 任地はパーム県ラパーム市。人口2万人で、パーム県の中心地である。

 ギギはダダとはちがい、強引には悪魔少女狩りを進めていなかった。

 教会に市民を集めて、地道に布教し、狩りの協力者を増やしていた。

「敬虔なるバルーン唯神教徒のみなさん、悪魔少女狩りに協力してください。悪魔少女は殺人の衝動を持っています。放置してはおけない存在です。しかし、正義の悪魔少女、神聖少女騎士になればよいのです。殺人衝動を我が国の敵に向けさせます。敵とは、悪の悪魔少女かもしれないし、我が国を侵略しようとしているガーラ王国の軍人かもしれません。いずれにしろ、罪のない市民を殺させたりはしません」

 ギギは朗々と響く声で、悪魔少女狩りの意義を伝える。

「神はあたくしたちの行動をご覧になっています。善行を積めば、天国へ行けます。悪行を重ねれば、地獄に落ちます。そのシンプルで美しい教義に従ってください。悪魔少女狩りは善行であり、その妨害は悪行です。悪魔少女を皆殺しにしようなんて、あたくしは少しも考えていません。悪の悪魔少女は処刑するしかありませんが、教皇国に忠誠を誓い、正義の悪魔少女になれば、命が救われるばかりか、死後、天国へ行けるのです。もしあなたの娘が悪魔少女だったら、説得してください。ギギ・バルーンのところへ行け、神聖少女騎士になれと。悪いようにはしません」

 真摯に見えるギギの態度に心打たれる市民は多い。彼女の悪魔少女狩りは成功している。

 首都から連れてきた3人の部下の悪魔少女はひとりも戦死することなく、新たにラパーム市で4人の配下を加え、7人の神聖少女騎士を従えるまでになっている。


 悪魔少女ラン・ガジェット。

 悪魔少女ミク・ダゴン。

 悪魔少女ダリア・ゴーン。

 悪魔少女アイ・グリーン。

 悪魔少女ルンルン・キーラ。

 悪魔少女ハル・ドグラマグラ。

 悪魔少女マイ・ズーム。

 自らも悪魔少女であるギギは、8人もの異能を持つ神聖少女騎士を戦力として有している。

「あたくしが最強よ」と彼女はつぶやく。


 彼女は遠話の悪魔に変身し、首都マーロにいる叔父バルデバラン・バルーン教皇に話しかけた。

「親愛なる教皇猊下、ギギです。いまお話ししてよろしいですか」

「かまわん。会議中だが、おまえと話す方が優先順位が高い。皆、少し待っておれ」

「ありがとうございます、叔父上様。あたくしの狩りは順調ですが、弟のダダのやり方が少し強引すぎるように思われます」

「そうか。もしおまえに余力があれば、フォローしてやってくれ」

「ラパーム市での狩りはまもなく終わります。完了したら、ラシーラ村に立ち寄り、それからマーロに帰還しますわ」

「そうしてくれ」

「それから、ダダがバイオリンが上手な音符の悪魔少女を配下に加えた、と言っていましたわ」

「それは面白い。余は音楽が好きだ。ぜひその悪魔少女が弾くバイオリンの調べを聴きたい」

「ダダに伝えておきますわ」

「有能な悪魔少女は神聖少女騎士にせよ。無能な者、反抗的な者はいらん。悪の悪魔少女として容赦なく殺せ」

「わかっておりますわ」

「引き続き、余のために働け」

「御意」


 遠話を終え、ギギは変身を解いた。

「次の教皇はあたくしよ。うふふふふ」

 彼女も野望を抱いていた。邪魔をするなら、弟を殺すことも厭わない。そういう女だった。

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