第22話 もぐらの悪魔少女 地中生活
羊飼いの娘ルナル・ファロファロはもぐらの悪魔少女だ。
姉ステラは悪魔少女狩り小隊に殺された。
ステラの親友ユウユウは敵に屈服し、神聖少女騎士になってしまった。
ルナルはもぐらの悪魔に変身し、かろうじて地中に逃げて、生き延びた。
上半身はもぐらで、下半身は人間。
彼女はその姿のまま、地中に潜って暮らしつづけている。
ひとりでいても、別に寂しくはない。もともと人付き合いは苦手だった。初等学校でいじめられて、4年生のときに不登校になった。それ以来、遊び相手はステラとユウユウだけ。そのふたりとも、もう遊べない。
地上に出たら、悪魔少女狩り小隊に狙われるだろう。
地下で生きていこう、とルナルは決めた。地中暮らしも悪くない。
ルナルは地下1メートルあたりにトンネルを掘り、自分の生活域を広げていった。掘り出した土は地表に捨てた。そのため、ふつうのもぐら塚とは比べ物にならないほど大きなもぐら少女塚が草原のあちらこちらにできた。
お腹が空いたら、地下の浅いところへ行き、ミミズや幼虫を食べた。ふつうの人間はそんなものは食べないが、もぐらの悪魔に変身したルナルにとってはごちそうだった。美味しい食事だ。
地下でもぐらの生活を見るのが、彼女の楽しみだった。草原の地下には想像以上にたくさんのもぐらが暮らしていて、仲よくしたり、けんかしたりして生きていた。もぐらたちはとてもかわいい。
彼らを観察し、鳴き声を聴く。もぐらにも感情があり、楽しんだり、怒ったり、悲しんだり、愛し合ったりしていることを知った。女の子を巡って、男の子たちがけんかをする。縄張りを守ろうとして、侵入者と戦う。人間と同じだ。
もぐらたちは鳴き声でコミュニケーションを取っていた。ルナルはその鳴き声の真似をしてみた。もぐらたちがルナルの声に反応することもあった。もぐら語を覚えたいな、と彼女は思った。
もぐらと出会うと、ルナルは「ムギュッ」と発声した。「こんにちは」と言っているつもりだった。大きなもぐら少女に怯えて逃げるもぐらが多かったが、「ムギュッ」と答えるもぐらもいた。彼らとあいさつができるようになって、もぐらたちがますます可愛く思えるようになった。「ムギュギュ」「モギュ」と鳴き声を交わした。
ルナルに慣れて、近づいてくるもぐらも現われるようになった。彼女はそんなもぐらをやさしく撫でた。「モギュギュッ」と鳴いて、喜んでいるようだった。ルナルも喜んだ。もぐらかわいい!
ルナルはラシーラ村の地下をどんどん掘り進み、活動範囲を広げていった。地底には彼女の敵はいない。
もぐらの悪魔に変身したルナルは視覚をほとんど失ったが、かわりに優れた嗅覚を得た。土質の違い、ミミズや幼虫の居場所、雨の気配、もぐらの接近、邪魔な木の根、いろいろなものが匂いでわかる。地下のトンネル暮らしに不自由はない。
ルナルが掘った巨大なトンネルを利用して、もぐらたちも移動するようになった。ルナルは地底に彼女ともぐらの世界を築いていった。ルナルの地底の国。
彼女はときどき、こっそりと地面から頭を出した。人間の姿に戻り、地上を見る。ダダたちが悪魔少女狩りをつづけ、次々と少女たちを殺したり、捕まえて牢屋に入れていることをルナルは知った。大好きだった姉のステラを殺した仇が、ラシーラ村を荒しつづけている。
「モギュッ、あいつらは大嫌い……」
彼女はダダたちを憎んだ。早く悪魔少女狩りをやめて、ラシーラ村から出ていってもらいたかった。
ユウユウが彼らの手先にされているのを見るのもつらかった。彼女の目は輝きを失っている。バイオリンを弾くとき光っていた瞳に生気がない。
ある日、草原のトンネルから頭を出すと、父ファットが羊たちの世話をしていた。苦しそうな顔をしている。ステラは死に、ルナルは失踪した。さぞかし悲しい想いをしているにちがいない。ルナルは人間の姿に戻り、父のそばに歩いて行った。
彼女を見ると、ファットは驚き、顔をくしゃくしゃにして泣いた。
「ルナル、生きていたのか。よかった……」
彼は土にまみれて汚れた娘を抱きしめた。
「ルナル、家に帰ろう。ステラは殺されたが、おまえが生きていてくれてうれしい。家族で一緒に生きていこう」
「それはできないの。わたしはもぐらの悪魔少女だから。地上に出たら、狩られてしまう。巻き添えで、パパとママも殺されるかもしれない。ダダがいる間は、わたしは地底から出られないの」
「ダダか。ステラの仇だ。あいつを殺してやりたい」
「無理だよ。あの男は神聖少女騎士たちに守られている。ユウユウもあいつの配下になっちゃった」
「隙をついて、ダダを刺してやる。おれは娘を殺されて、泣き寝入りするような男じゃない。復讐してやる」
「パパ、むちゃをしないで。あいつらは武装集団だよ。悪魔少女の異能も持っている。逆に殺されちゃうよ」
ファットはうつむいて、「くそっ」と吐き捨てた。それから、ギラギラした目をルナルに向けた。
「じゃあ、おまえがダダを殺してくれ」
「えっ?」
「おまえも悪魔少女なんだろう? 地下から不意打ちして、あいつを殺すことはできないか?」
ルナルは黙り込んだ。乱暴なことは好きではない。
「頼む、ステラの仇を取ってくれ!」
ファットは思いつめた顔をしていた。ルナルは父の想いを無碍にはできなかった。
「わかった。やってみるよ」
もぐらの悪魔少女は踵を返し、地下トンネルに戻った。彼女が姿を消すまで、ファットは目で追っていた。
お姉ちゃんの仇を討とう、とルナルは決心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます