第12話 被害者の家族たち 村役場の混乱

 薬屋の主人グリン・サロとその娘リデラは地下牢に収容されている。グリンは毒薬を使った自殺幇助の容疑者で、リデラは悪魔少女の容疑者だ。

 グリンの妻ミーナは村役場の税金課へ行き、「夫と娘を返してーっ!」と叫んだ。

 アモン・ニッケルの後任の課長ハザン・マクロは面倒なクレームの対応をする気はなかった。税金第1係長のピサ・ウイングに「うまく対応して、帰ってもらえ」と命じた。ピサは戸惑ったが、上司の命令には逆らえない。

「ミーナ・サロさんですね。税金課は悪魔少女狩りとは無関係です」

「課長のニッケルさんが悪魔少女狩りの片棒をかついでいるじゃないの。夫と娘は無実よ! すぐに牢屋から出して!」

「ニッケルはいまは税金課長ではありません。悪魔少女狩り小隊の案内係になりました」

「じゃあ悪魔少女狩りの責任者を出して!」

「責任者は小隊長のダダ・バルーン様ですね。国から派遣されてきた方です」

「あんな危なそうな人とは話せないわよ」

「とにかく、役場とは関係ないことです。お引き取りください」

「村人が牢屋に入れられたり、殺されたりしているのよ。関係ないで済まさないでよ!」

 ミーナは激怒した。

「村長を出して!」


 小麦農家の娘ハルル・ゴールデンは花畑の丘で毒殺され、その死体は放置された。

 ハルルの父シュウは肩を怒らせて村役場の農業課に乗り込み、ふだんからよく話している課長のタナー・パックスの前に立った。

「なぜ娘は殺されたんだ。説明してくれ、パックス課長!」

「私に聞かれても答えられませんよ。なにも知りませんから」

「あんたは村役場の幹部のひとりだろう? なにか知っているはずだ。なにも情報がないとは言わせない!」

「首都マーロから悪魔少女狩り小隊がラシーラ村へ来て、その任務を遂行している。知っているのはそれだけです」

「なぜおれの娘が殺された? たった9歳の可愛いハルルが、どうして殺されたんだ?」

 シュウは泣きながら怒っていた。

「おそらく娘さんは悪魔少女だったのでしょうね……」

「ハルルは悪魔少女なんかじゃない! 証拠はあったのか?」

「そんなことはわかりません。私に聞かれても困ります」

 シュウは激昂した。

「村長に会わせろ!」


 光の悪魔少女として殺されたフルーテ・ワイナーの父ホーテは、村役場の村民課に死亡届を出した。そして、窓口で泣きながら言った。

「フルーテは悪魔少女なんかじゃなかった。どうして殺されてしまったんだ……」

「光の悪魔少女だったと噂になってますよ。身体が光ったって」と村民課員のサリナ・ファゴットは答えた。

「そんな噂はまちがいだ。鏡かなにかが光っただけなんだ。裁判もなしに殺すなんてひどいじゃないか」

 ホーテはぽたぽたと涙を流した。

「死亡届は受理しました。次のお客様が待っているので、お帰りください」

「娘の殺害に抗議したい。村民課で聞いてくれるか?」

「そういうのは警察でお願いします」

「警察署ではもう話した。悪魔少女狩りは管轄じゃない、村役場に行ってくれと言われたよ」

「村民課の管轄でもありません」

「どこに行けばいいんだ?」

「さあ、私にはわかりません」

 ホーテは涙をハンカチで拭い、サリナを睨みつけた。

「村長に抗議したい。取り次いでくれ」


 医師ベール・コヤノの娘ムーンは悪魔少女の疑いで斬首された。

 ベールは怒り狂い、村役場に押しかけ、村長室の前で叫んだ。

「村長を呼んでくれ! この村で異常な悪魔少女狩りが行われ、罪のない少女たちが殺されている。私の娘も首を斬られた。村長と話したい。残虐行為を止めてほしい!」

「村長はいま忙しく、お会いすることはできませんわ」と秘書のラン・カッスルは言った。

「悪魔少女狩りをやめさせる以上に火急の用などない。村長に会わせてくれ!」

「お言葉ですが、村長は本当に多忙なのです。アポイントメントのない方と会っている時間はありません」

「ではアポを取らせてくれ。いつならいい?」

「ご用件は悪魔少女狩り中止の要望ですね。面会の時間が取れるかどうかわかりませんが、後ほど村長に話しておきます」

「面会できるかどうかわからないだと? ふざけるな! こっちは大切なひとり娘を殺されたんだぞ!」

「そう言われましても、村長の責任ではありませんし……」

「村で起こった殺人事件だ。連続殺人事件だぞ! 警察署長だって、村長の部下のひとりだろう? 村長の責任で、悪魔少女狩りをやめさせてくれ!」

 ベールは大声でまくし立てた。ランは困って黙り込んだ。

「また来るからな! 次は村長に会わせてくれよ!」


 本屋の主人ラジカ・ブッカーの娘エリカはめった斬りにされて死んだ。

 ラジカは村役場の商業課に行き、鬼のような形相を課長に向けた。

「うちの子がむごたらしく斬殺されました。どういうことなんですか」

「さあ、私にはまったくわかりません」と商業課長のコーム・リドルは答えた。

「ラシーラ村の少女たちが次々に殺されたり、投獄されたりしています。村役場はこれについて、どう考えているのですか」

「役場は悪魔少女狩りとは無関係です」

「いまのラシーラ村で最大の問題です。無関係ではないでしょう」

「少なくとも、商業課とは関係ありません」

 ラジカはドン、と商業課長席を拳で叩いた。

「では、責任者を出してください。村長を!」


 白蛇神社の神主のサオヒコ・ハクジャの娘ウズメは境内で不審死を遂げた。悪魔少女狩り小隊と接触していたとの目撃談があり、サオヒコはラシーラグランドホテルの前でダダを待った。

 ウズメの死の翌日、ホテルの前でサオヒコはダダたちと会った。

「私の娘を殺したのは、あなたがたですね」

「あんたは誰だ?」

「私は白蛇神社の神主、サオヒコ・ハクジャ。ウズメの父です」

「あの巫女の父親か。悪魔少女だったから、処刑した」

「ウズメは悪魔少女ではありません。神々に仕える巫女で、清らかな心を持っていた。悪魔とは対極にいました」

「バルーン神を信じない異端の悪魔少女だった。ボクの見立てにまちがいはない」

「異教徒だから殺したのですか。司教様、やりすぎではないですか。謝罪し、娘に線香をあげてください」

「線香だと? 異教のしきたりなどできるか」

「では、謝罪だけでもしていただきたい」

「ボクは正しく任務を遂行した。謝罪する必要はない」

「人殺しめ!」

 サオヒコは一喝した。

「シャン、こいつは悪魔の手先だ。斬れ」

 シャンは剣を抜いて跳躍した。神主の頭部が飛んだ。村役場に隣接するホテルの前での出来事で、多数の目撃者がいた。

 役場に衝撃が走った。


「村長、衆人環視の中で、神主が神聖少女騎士に殺されました。事態は深刻です。悪魔少女狩りに反対する声は多く、遺族からの激しいクレームはもうかわしきれません」

 秘書が村長に報告した。

 ピピンは頭をかかえた。

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