第8話 土塚のある草原 もぐらの串焼き
ダダは草原に寝転んでいた。
彼を守るように3人の神聖少女騎士が帯剣して背後に控えている。
案内係のアモンは疲れた表情をして、少し離れて座っていた。悪魔少女狩りの案内係は、税金課長よりも遥かにストレスの高い仕事だった。少女を殺したり、牢屋にぶち込んだりする手助け。
「待っていたよ、ユウユウちゃん、ルナルちゃん」
ダダは寝転んだまま、顔だけをバイオリン弾きの少女ともぐら食いの少女に向けて言った。
ユウユウはダダの言葉を聞いて、家に帰りたくなった。声に底意地の悪さがにじみ出ている。
「ふたりの悪魔少女ちゃんたち」
「ユウユウもルナルも悪魔少女なんかじゃないわ。ふたりともいい子よ」
ステラが言い返した。
「きみには興味がない。美しくない平凡ちゃん」
「やっぱり失礼きわまりない人ね」
ダダは起き上がり、ルナルの正面に立った。
「まずはルナルちゃんから取り調べようか。もぐらを食べる変な子ちゃん」
「わたし、変な子じゃないもん」
「変な子だよ。もぐらを食べるんだろう?」
「焼いたもぐらは美味しいよ。もぐらを捕まえるのは楽しいし、もぐらたちが生きているのを見るのも面白いんだよ」
ルナルたちがいる草原には、たくさんのもぐらの土塚があった。
「ここにはもぐらがいっぱい住んでいるんだ。草原の下にはもぐらたちのトンネルが張り巡らされているの。栄養があるミミズや幼虫をたっぷり食べているから、もぐらは美味しいんだよ」
「つまり、もぐらの肉を食べるのは、ミミズや幼虫を食べているのと同じだね?」
「そうとも言えるね」
「やはりきみは悪魔少女だ。ミミズを好んで食べる人間はいない」
「決めつけないで! ルナルは悪魔少女なんかじゃない」
ユウユウが割って入った。
「では、悪魔少女ではない証拠を見せろ」
「そちらこそ、ルナルが悪魔少女である証拠を見せなさいよ」
「その必要はない。ルナルちゃんは可愛くて変な女の子だ。非常に悪魔少女っぽい。まちがいなく悪魔少女だね。ボクがそう判断したんだよ。それだけでルナルちゃんを処刑する理由になるんだ。ぼくには処刑権がある」
「処刑権?」
「拷問権もある。悪魔少女狩り小隊長に与えられた権利だ」
「そんな権利、人が持っていいわけがない。神様が許さないわ」
「悪魔少女が神を語るか。滑稽だね」
「ワタシは悪魔少女じゃない!」
ユウユウは強く言い張った。本当は音符の悪魔少女だが、それを知られるわけにはいかなかった。
「わたし、人間だよ」
ルナルは自分の左手の小指の先を嚙みちぎった。
「ほら、赤い血が流れているでしょう」
「それだけでは証明にならない。悪魔少女を斬れば、赤い血液が流れ出る」
ルナルは途方に暮れて首を傾げた。
「どうすればいいの」
「もぐらをボクに食べさせてくれ。もし美味しかったら、きみは見逃してあげるよ。不味かったら、即刻死刑だ」
ルナルは土塚のそばに仕掛けておいた罠を取り出した。バケツを使った落とし穴式の罠だ。
そこに1匹のもぐらがいて、もぞもぞと動いていた。トンネルからバケツに落下してしまったもぐら。
「いたよ。かわいいよね、もぐら」
「異様な臭いがするぞ。悪臭だ」
「いい匂いだよ。土とミミズと幼虫の匂いだよ」
「これをいい匂いと言うのか。悪魔少女の感覚だ。人間の嗅覚じゃない」
ワタシもその臭いは嫌い、とユウユウは思ったが、黙っていた。
ルナルは枯れ草と枯れ枝を集め、マッチを使って火をつけた。
金串をもぐらの胴体に刺した。
「キュッ、ギュルギュルッ」と鳴いて、もぐらは絶命した。
ルナルは焚き火でもぐらを焼いた。もぐらの毛がチリチリと焦げた。煙が立ち、異臭がした。
「やっぱり臭いぞ」
「そうかなあ。良い匂いだと思うけど」
ルナルの感覚はちょっと異常だ。嗅覚に関しては、ユウユウもダダに賛同するしかなかった。
もぐらはあまり美味しくはない。このままではルナルは殺されてしまう。どうすればいいのだろう。
ルナルがもぐらに塩を振った。
「焼けたよ。食べてみて」
もぐらの串焼きをダダに渡す。彼は嫌そうな表情でかぶりついた。そして、すぐにぺっと吐き出した。
「不味い。決定した。おまえは悪魔少女だ」
「ダダ様、自分に殺させてください」
「いいだろう。ノナ、ルナルちゃんを斬れ」
ノナが剣を抜き放った。
妹同然のルナルを殺させるわけにはいかない。音符の悪魔に変身して戦うしかない、とユウユウは決意した。
「あーあ、殺されるのは嫌だなあ」
ルナルはさして緊張感のない声で言った。
「仕方ないなあ。びっくりしないでよ、お姉ちゃん、ユウユウ。もぐらの悪魔に変身」
13歳の少女の姿が変化した。上半身が一瞬溶けたようにぐにゃりと崩れ、新たな形状を取った。上半身がもぐらで、下半身が人間という姿。
もぐらの悪魔は猛烈な勢いで穴を掘り、土の中に潜ろうとした。
ルナルはもぐらの悪魔少女だったのだ。ステラもユウユウも知らなかった事実だった。ふたりとも呆然としていた。
あっけにとられているのはノナも同然だった。
「ノナ、逃がすな、斬れ」
「は、はい!」
ノナが剣を振りかぶった。ルナルが敵に土をかけた。大量の土を浴び、ぺっぺっと口の中に入った土を吐き出しているうちに、ルナルは土の中に逃げ込んでいた。巨大な土塚ができていた。
「おまえの妹は正真正銘の悪魔少女だったぞ、平凡ちゃん」
「あたしもいま初めて知った」
ステラは驚いて、目を見開いていた。ワタシも悪魔少女だと知ったら、ステラは引っくり返るだろうな、とユウユウは思った。
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