9

 シェルター奪還作戦。

 まだ中に虫が居ると決まったわけではないが、居ないと決まったわけでもない。

 必要以上に警戒する事こそ重要だ。

 

「ダエル、上げてくれ」

「まかせろ」

 

 俺はダエルの手を借りて洞窟の上に登る。

 上部にある通気口を塞ぎに行くのだ。

 

「よし。いいぞ。皆は入口を見張っていてくれ」

「落っこちないでね」

「ああ。分かってるよ」

 

 割れ目に手を突っ込んで先へ進む。

 

 

「よし。あった」

 

 塞げる通気口は2つ。

 厨房と鍛冶場に繋がっている。

 大して大きくもない。俺はそこに石を置いた。

 

 よし。ひとまずはこれでいい。粘土があれば良かったが、そう都合良くはいかないな。

 

 奪還作戦の下準備は完了。

 入口近くで待つ皆に合図を送った。

 

 

「終わったか?」

「ああ。完璧。中にいるかどうかは分かったか?」

「それは、うん。多分いると思うよ。脚が落ちてたから」

 

 脚、か。ここに住んでいた人と戦った跡だろうな。

 

「それで、何の脚かは?」

「……ゲジ、かな」

「……なるほど」

 

 ゲジがわざわざシェルターを襲った?

 

 奴らは大きさの割に臆病だ。一応持つ毒牙も大した脅威にはならない。

 自分よりも小さな虫を狙って大きく移動はしない。

 そうなると浮上する可能性が

 

「何かから逃げてきた?何から……」

 

 蟷螂、蜘蛛、百足、蜂……

 どの方角かは分からない。が、ヤバいやつが近くにいる可能性がある。

 

「悩んでいても仕方がないか。とにかくシェルターを取り返そう」

「了解」

 

 火攻めをしようと入口の方へ。

 その時

 

「皆武器を持て!戦闘態勢!」

 

 出てきやがった!数は2

 予想通りのゲジか

 

「後ろのやつに火を投げろ!分断する!」

 

 ゲジの体は柔らかい。ならば――

 

「ダエル!ガードはいい!速攻で頭を潰すぞ!」

「ああ!」

 

 今回、ダエルが腕に付けているガード、ゾウムシの殻は必要無い。

 守りよりも攻め。

 炎による分断を抜けられる前に、速攻で1体落とす!

 

「おお!!」

 

 鎌を限界まで開き、頭を切りつける。

 

「クッソ……」

 

 躱された。だがしかし、脚は2本持っていった。

 15対。それのたかが2本。

 それでもほんの少しは動きを鈍らせることができる。

 

「ダエル!」

「ああ!」

 

 俺の抜けた後ろで、ダエルの渾身の殴りが炸裂する。

 

 彼の武器は拳。それを蜘蛛糸と鉄で覆い、蟻の顎を埋め込んだもの。

 その凶悪な殺傷兵器が、ゲジの顔半分を穿つ。

 

「まだだ!」

 

 拳は2つ。襲う衝撃も、2度。

 

 残った左でフックを放った。

 だが

 

「グッ……」

 

 浅い。利き腕では無いその攻撃は、脳を破壊するには至らない。

 そしてゲジもやられっぱなしでは無い。

 ダエルに巨体で体当たりを食らわせた。

 

「ダエル!無事か!?」

「ああ!だがもう顎は封じた!」

 

 よく見れば、ゲジの顔はもう相当変形している。

 ダエルの言う通り、顎は半分吹き飛んでもう半分は埋まっている。

 チャンスだ

 

「チア!来い!ケリをつける!」

「オッケー!」

 

 チアは俺が駆け出すのと同時に、2本持つ槍の1本をゲジに投げつける。

 大怪我を負っているといえど、奴は速い。

 槍は躱され地に刺さる。

 無駄――では無い。それは陽動。

 

「アホがよ!」

 

 視覚外からの一撃。

 俺はゲジの斜め後ろから鎌を思い切り振り下ろした。

 少しの抵抗の後、グチャりと柔らかい感触が伝わる。

 

 届いた!

 

 そのまま逆手に持ち替え、全体重を乗せて切り裂く。

 

「おおお!!!」

 

 ザッ――と刃が突きぬけ砂に刺さる。

 ゲジの頭は、半分ほどを切り裂かれ脳も破壊した。

 

「次行くぞ!火から武器に持ち替え!」

 

 分断ももう必要無い。

 俺たちは全員でもう1体のゲジと対峙した。

 

 

 

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