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同年 5月15日 22:00 千葉エリア
俺たちは進行を再開し、現在は蜘蛛の巣だった洞窟跡に来ている。
高火力に晒され続けた辺の地面はガラス化しており、一部熔けた洞窟と相まって神秘的ですらある。
しかし、ここに来たのは観光目的というわけではない。資源を回収しに来たのだ。
ただ、もちろん蜘蛛は全て消し炭、いや、もはや炭すら残っていない。
では何を回収しに来たのかというと
彼らの糸だ。
どういうわけか巨大蜘蛛の糸は完全なる耐火性。岩をも熔かす超高温だろうとビクともしない。
そのために、俺たちがよくテブクロと呼んでいるもの、それはその糸で作られている。
もちろん用途はそれだけでは無い。服に使えば事故防止の耐火服が出来上がるし、そもそも丈夫過ぎるため、武器の材料に使ったりもできる。
蛍の発光器のように、こちらも重要な資源だ。
「いやー、すんごい量だね。流石、巣なだけあるわ!」
「カバンに空きがあるやつ、詰めるだけ詰めていこう」
それぞれリュックのように背負っているカバンには、燻製にした肉や砕いた氷冷石を入れた水筒など、旅に必要なものがいくつか入っている。
「エリス、中身ルイスに持ってもらって、お前のやつに詰めよう」
「はーい。じゃお姉ちゃんお願い」
糸は殆ど重さを感じないほど軽い。
ならばこの中で一番力が無いエリスが持つのが最適だろう。
「よし。こんなもんだろ。あと4時間で次の洞窟……行けるか?」
こればっかりは運だからな。近くに別の洞窟があればいいが、無いと面倒なことに。
「せっかく綺麗なところになったんだし、もう今日はここに泊まってこうよ」
「オレも賛成だな。エリスはこういうところ好きだろ?」
「うん!キラキラしてていいよねー。ガラスも取ってく?」
ふむ。そうなるか。
観光目的で無いと言ったばかりだが、結局観光になってしまったな。
日頃から洞窟暮らしの俺たちにとって、ここはさながら高級ホテルとでも言ったところか。
こうして本日の進行は終了。
ゆっくりに感じるかもしれないが、得られた資源のことも考えるとかなり良いペースと言っていい。
なんなら一度帰って、この蜘蛛糸で鎧下の服を作り直してから再開したいところだ。
流石にそこまではしないけどな。
「砂嵐、止まなかったね」
「ああ。こりゃ足止めだな」
翌日、昼から砂嵐が吹き始めた。
こんな世界で、それは危険度を跳ね上げる。
まず、視界が利かなくなる。これは虫からしてもそうだが、出会い頭というのは絶対に避けなければならない。
次に、耳も効かなくなる。風の音で皆と会話はおろか、虫が接近している音も聞こえない。
そして最後に、息ができない。これが致命的だ。
マスクに砂がこびり付いてしまって悲惨も悲惨、とんでもない事になる。
そういうわけで、この日も終了。
天候なんて気まぐれなものだから、こればっかりは仕方がない。
同年 5月17日 19:30 千葉エリア
「綺麗なお月様ー!」
「これでようやく進めるな」
砂嵐はかなり長い間吹き荒んでいたが、今日の夕方頃にピタリと止み、現在は澄んだ夜空がよく見える。そこには大きな満月が。
暗闇の中移動しなければならない俺たちにとって、正に希望の光だ。
今夜は可能な限り遠くまで進もう。
こうして俺たちは、いつもより速いペースで進行して行くのだが、しばらくして問題が起きた。
場所は、東京湾に沿って20キロほど南下した辺りだろうか。
そこで見つけたものは――
「間違いなく、シェルター跡だな」
「うん。最悪だね」
俺たちが見つけたシェルター跡。それは酷いものだった。
入口は無惨にも破壊され、その周辺は赤い血、人間の血が大量に撒き散らされたであろう赤くなった砂地が広がっている。
シェルター内で生活をしていると示す標識も折れ、まず確実に全滅。最悪、まだ中に虫がいる可能性もある。
厄介極まりない。
「ヴァルどうする?やっぱり解放すべきだよね?」
「……少し、考えさせてくれ」
シェルターは人間にとって唯一のセーフティエリア。
通常の洞窟とは違い、何故か様々な施設が備え付けられている大切な場所。それが全部でいくつあるかは知らないが、とにかく確保すべき場所なのだ。
であるならば巣攻め同様、火を使って中を殲滅したいところだが、そう甘くは無い。
まず、火を使ってと言っているが、本当の攻撃手段はそれで発生する煙だ。
人間だろうが虫だろうが、息が吸えなくなれば窒息して死ぬ。
ただの洞窟であればそれだけで終わりなのだが、シェルターに防衛機構が備わっていないわけが無い。
そんなシェルターの内部構造だが、大きさによって多少の違いはあるものの、基本的にはどこも同じ。
狭い入口を通って広場。そこから厨房と鍛冶場へと続き、別の道は小さめの広場(トレーニング場)で、その奥には農業プラント。さらに別の道からは倉庫やトイレなどが続き、最奥には寝室(仮眠室)。
そして問題となるのが、厨房と鍛冶場に寝室。
寝室にはそもそも煙が届かず、他は2つは外に排出されるようになっているのだ。
「決めた。あそこは取り戻す。やり方は火攻めに変わりないが、まずは煙突を塞ごう。寝室の奪還は……諦める」
「了解。でも諦めるっていうのは?」
「ああ、言い方が悪かったな。今は諦めるだ」
寝室に煙が残ったらしばらくの間消えない。それならば、いっそそこに溜まっているであろう虫ごと閉じ込めてしまえばいい。
遠征の帰りに寄って、その時に完全に取り返すというわけだ。掃除とか色々と大変そうではあるが。
「皆、いいな?」
俺は拳を突き出す。
他の5人もそこに拳を合わせ――
シェルター奪還作戦、開始だ。
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