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 遠征のコースは、東京湾に沿って南下するものに決めた。

 海だった場所は開けすぎて危険な可能性が高いので、やや内陸側を進みながら進行となる。

 

 

 同年 5月15日 01:00 東京エリア→千葉エリア

 

「皆、洞窟を見つけたら可能な限り場所を覚えておいてくれ」

「ああ」

「了解ー」

 

 基本的に、先へ進むのは日が沈んでから。

 夜にだけ進み、日中は洞窟などで過ごす。

 

「ひとまずはここにあるやつ、覚えておくよー」

 

 04:00までに次の洞窟が見つからなければ、ここまで戻って翌日また進む。

 そうやって歩を伸ばしてゆくのだ。

 

 

 同日 03:30 千葉エリア

 

「んーハル、蜘蛛だ。やった方がいいか?」

「そう、だね。せっかく巣を見つけたし、焼いておくべきだと思う」

 

 俺たちは進行を進める中、洞窟に棲む大量の蜘蛛を見つけた。

 巣だからラッキー、楽勝じゃん。

 と思うかもしれないが、こいつは特に警戒心が強い。さらに、糸という強力な飛び道具まで持っていて、見つかればほぼ100% 死 だ。

 

「……よし。行ってくる。皆はここで待機。もし俺が見つかったら、見捨てて逃げろ。遠征も中止だ」

「気をつけろよ、ヴァル」

「ああ。分かってるよ」

 

 蜘蛛相手に全員で行くなんてバカのすることだ。

 だからこそ、俺だけで行く。

 

 俺は砂を被りながら、ほふく前進で巣へと近づいてゆく。

 

 奴らはその特徴的な8つの目で獲物を見つけて襲いかかる。

 触角を持つ虫のように風の流れや匂いで察知したりはしないが、張り巡らされている網や糸に掠りでもしたらそれでも終わり。

 網を張らずに動いて獲物を探すのを徘徊性。網を作って獲物がかかるのを待つのが造網性と呼ばれ、今の巨大蜘蛛はどちらの性質も併せ持つ。

 

「……おっ、と糸だ」

 

 俺は地面に垂れて伸ばされている糸に燃料を投げる。

 すると――

 

 目にも止まらぬ速さで巣の中へ引き込まれてゆく。

 この髪の毛を数本束ねた程度の太さしか無い糸こそ、最大の危険であると共に攻略の糸口だ。

 

「よし。次の糸」

 

 俺は今回見つけた糸には、ポケットに入れていた肉を投げる。

 それもまた、一瞬で巣の中だ。

 

「……次、もう行けるか?」

 

 これは何をしているのかというと、奴らを油断させているのだ。

 糞に肉。どちらも奴らにとって害はない。むしろ、肉の方は食料だ。喜んで飛びついてくる。

 

 だからこそ、3度目は――

 

「……行ってこい、クソったれ」

 

 砂で覆った燃料。それには、火がつけられている。

 今回も当たり前のように巣へ引っ張られて行った。

 俺はというと、すぐに逆を向いて静かに逃げる。

 

 さあ、来い 来い 来い

 

 熱風が、吹き付けた

 

 キタ!!!

「全員来い!!!」

 

 ここからは瞬間火力が必要だ。

 蜘蛛が出てこれないように、待機していた皆も交えて燃料を投げまくる。もう火もつける必要は無い。ただ投げるだけだ。

 

 10個20個と放ってゆき、前回の、蛍の幼虫のときとは比べ物にならない火力になる。

 巣ごと、その付近はドロドロに溶け、およそ生命が生存できるはずもない地獄が完成する。

 

「ヴァル!」

「やったよ。戻ろうぜ」

 

 蜘蛛。

 それはかなり上位の虫。

 今回は巣にいてくれたから何とか勝つことが出来た。しかし、もし平野で遭遇したら?

 それは終わり。

 少なくとも、誰か1人が生贄になって逃げるしか生き残る方法は無い。

 

 虫と俺たち人間の戦力差は、それほど絶望的なのだ。

 

 

 同日 07:30 千葉エリア

 

「あー……まだ心臓バクバクしてる気がする」

「蜘蛛相手だからね。しょうがないよ」

「次は俺が行ってやろうか?」

 

 巣焼きをして帰りが少し遅くなった。

 もうきっかり太陽も昇ってしまい、俺たちはカサを使いながら1つ前の洞窟まで戻ってきた。

 

「いや。危険を負うのは俺の役目だ。ダエルは副リーダーだからな。俺が死んだ時には皆を纏めてもらわないと」

「俺が副リーダー?そんなのいつ決まった?」

「別に正式に決めたわけじゃないさ。ただ、お前は皆の兄貴分的な存在だろ?だから勝手にそう思ってるだけだよ」

 

 小さな洞窟に俺たちの笑い声が反響する。

 こういった心を休める会話も必要だ。

 

「お前ら、メシは?」

「ん?ああ、頼むよ」

 

 ここで俺たち家族の最後の大人、ルイスとエリスを紹介しておこう。

 

 彼女たちは姉妹。ルイスが姉でエリスが妹だ。

 どちらも暗めのブロンドで、ルイスはベリーショート。エリスはセミロング。性格も、ルイスは男勝り。エリスは末っ子気質と、髪色以外は余り似ていない。

 それでも仲は良く、外では彼女たちが調理当番を受け持っている。

 

 まあ、調理といっても焼くだけなんだがな。

 

「なんだヴァル。嫌なら食わなくてもいいんだぞ?」

「悪かった悪かった。冗談だって」

「お姉ちゃん、塩とってー」

「ほらよ」

 

 少々怒られはしたが、俺たちのシェルター内の大人はこれで全員。

 狩り組にヴァル、ダエル、ハル、チア、ルイス、エリス。

 待機組にレスティマとイニア。

 この8人でチビたちの世話含め、色々と仕事を回している。

 

 それから皆で飯を食って、寝た。

 また日が沈んだら進行再開だ。

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