7
遠征のコースは、東京湾に沿って南下するものに決めた。
海だった場所は開けすぎて危険な可能性が高いので、やや内陸側を進みながら進行となる。
同年 5月15日 01:00 東京エリア→千葉エリア
「皆、洞窟を見つけたら可能な限り場所を覚えておいてくれ」
「ああ」
「了解ー」
基本的に、先へ進むのは日が沈んでから。
夜にだけ進み、日中は洞窟などで過ごす。
「ひとまずはここにあるやつ、覚えておくよー」
04:00までに次の洞窟が見つからなければ、ここまで戻って翌日また進む。
そうやって歩を伸ばしてゆくのだ。
同日 03:30 千葉エリア
「んーハル、蜘蛛だ。やった方がいいか?」
「そう、だね。せっかく巣を見つけたし、焼いておくべきだと思う」
俺たちは進行を進める中、洞窟に棲む大量の蜘蛛を見つけた。
巣だからラッキー、楽勝じゃん。
と思うかもしれないが、こいつは特に警戒心が強い。さらに、糸という強力な飛び道具まで持っていて、見つかればほぼ100% 死 だ。
「……よし。行ってくる。皆はここで待機。もし俺が見つかったら、見捨てて逃げろ。遠征も中止だ」
「気をつけろよ、ヴァル」
「ああ。分かってるよ」
蜘蛛相手に全員で行くなんてバカのすることだ。
だからこそ、俺だけで行く。
俺は砂を被りながら、ほふく前進で巣へと近づいてゆく。
奴らはその特徴的な8つの目で獲物を見つけて襲いかかる。
触角を持つ虫のように風の流れや匂いで察知したりはしないが、張り巡らされている網や糸に掠りでもしたらそれでも終わり。
網を張らずに動いて獲物を探すのを徘徊性。網を作って獲物がかかるのを待つのが造網性と呼ばれ、今の巨大蜘蛛はどちらの性質も併せ持つ。
「……おっ、と糸だ」
俺は地面に垂れて伸ばされている糸に燃料を投げる。
すると――
目にも止まらぬ速さで巣の中へ引き込まれてゆく。
この髪の毛を数本束ねた程度の太さしか無い糸こそ、最大の危険であると共に攻略の糸口だ。
「よし。次の糸」
俺は今回見つけた糸には、ポケットに入れていた肉を投げる。
それもまた、一瞬で巣の中だ。
「……次、もう行けるか?」
これは何をしているのかというと、奴らを油断させているのだ。
糞に肉。どちらも奴らにとって害はない。むしろ、肉の方は食料だ。喜んで飛びついてくる。
だからこそ、3度目は――
「……行ってこい、クソったれ」
砂で覆った燃料。それには、火がつけられている。
今回も当たり前のように巣へ引っ張られて行った。
俺はというと、すぐに逆を向いて静かに逃げる。
さあ、来い 来い 来い
熱風が、吹き付けた
キタ!!!
「全員来い!!!」
ここからは瞬間火力が必要だ。
蜘蛛が出てこれないように、待機していた皆も交えて燃料を投げまくる。もう火もつける必要は無い。ただ投げるだけだ。
10個20個と放ってゆき、前回の、蛍の幼虫のときとは比べ物にならない火力になる。
巣ごと、その付近はドロドロに溶け、およそ生命が生存できるはずもない地獄が完成する。
「ヴァル!」
「やったよ。戻ろうぜ」
蜘蛛。
それはかなり上位の虫。
今回は巣にいてくれたから何とか勝つことが出来た。しかし、もし平野で遭遇したら?
それは終わり。
少なくとも、誰か1人が生贄になって逃げるしか生き残る方法は無い。
虫と俺たち人間の戦力差は、それほど絶望的なのだ。
同日 07:30 千葉エリア
「あー……まだ心臓バクバクしてる気がする」
「蜘蛛相手だからね。しょうがないよ」
「次は俺が行ってやろうか?」
巣焼きをして帰りが少し遅くなった。
もうきっかり太陽も昇ってしまい、俺たちはカサを使いながら1つ前の洞窟まで戻ってきた。
「いや。危険を負うのは俺の役目だ。ダエルは副リーダーだからな。俺が死んだ時には皆を纏めてもらわないと」
「俺が副リーダー?そんなのいつ決まった?」
「別に正式に決めたわけじゃないさ。ただ、お前は皆の兄貴分的な存在だろ?だから勝手にそう思ってるだけだよ」
小さな洞窟に俺たちの笑い声が反響する。
こういった心を休める会話も必要だ。
「お前ら、メシは?」
「ん?ああ、頼むよ」
ここで俺たち家族の最後の大人、ルイスとエリスを紹介しておこう。
彼女たちは姉妹。ルイスが姉でエリスが妹だ。
どちらも暗めのブロンドで、ルイスはベリーショート。エリスはセミロング。性格も、ルイスは男勝り。エリスは末っ子気質と、髪色以外は余り似ていない。
それでも仲は良く、外では彼女たちが調理当番を受け持っている。
まあ、調理といっても焼くだけなんだがな。
「なんだヴァル。嫌なら食わなくてもいいんだぞ?」
「悪かった悪かった。冗談だって」
「お姉ちゃん、塩とってー」
「ほらよ」
少々怒られはしたが、俺たちのシェルター内の大人はこれで全員。
狩り組にヴァル、ダエル、ハル、チア、ルイス、エリス。
待機組にレスティマとイニア。
この8人でチビたちの世話含め、色々と仕事を回している。
それから皆で飯を食って、寝た。
また日が沈んだら進行再開だ。
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