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何もありませんでした。
というオチを期待した者はどれだけ居ただろう。
「これは、蛍の幼虫か!よっし!運がいい!」
期待を裏切るようで申し訳ないが、ここは宝の山だったよ。
「全員発光器だけ切り取って一旦帰るぞ!」
「了解ー!食料は後だね」
蛍が光るというのは皆もよく知っているだろうが、実は成虫だけでなく、蛹でも幼虫でも、さらに卵だって光を放つのだ。
電気はなく火もまともに使えないこの世界で、俺たちはこの光で生活している。
故に、それは時と場合によっては食料よりも優先されることがある。
「レスティマ!蛍だ!それも大量に確保した!」
「ほんと!?すぐに鍛冶場を空けるね!」
シェルターに帰ってきた俺たちは、30個近い発光器を鍛冶場へと運ぶ。
死んでもなお光を放つようにするために乾燥させるのだ。
「わー!予備の灯りがたくさんだよ。どうしたの?こんなに」
「巣を見つけてな。あとはいつも通り」
「そっか。すごい運良かったね」
運が良かったと言われるにも理由がある。
それは蛍の生態。
彼らは水辺近くに卵を産み、その幼虫は水中で貝を食べる。
しかし、今この地球には水辺も貝も確認されていない。
どこに生息して何を食べるのか。一切が不明だから安定して得られるようなものでは無い。
6000年の間に進化したのか、謎が深まるばかりだ。
なんて言ったが、そもそも世界に6体しかいないはずのクイーンという謎の種から生まれているのだ。
蛍に限らず、似たような別の生物である可能性の方が高いか。
「じゃあレスティマ、発光器のことは任せた。俺たちは置いてきた食料を取りにまた出てくる」
「うん。任せて。イニアにも入らないように伝えておくよ」
深夜1時。狩り組は再び外へと繰り出した。
「ねえヴァル。往復大体3時間で、運ぶのは30体。他の皆にも手伝ってもらった方が良かったんじゃない?」
「それは、考えはしたけどな……」
マスクの数分連れ出したとしても、待機組は戦いとは離れて暮らしてきたのだ。もし虫と鉢合わせでもしたら被害が大きすぎる。
やはり連れて行くべきでは無いだろう。
「もし日が昇ってしまったら、その時はカサを使おう。あれなら長時間でなければ太陽放射線も防げる」
ダエルが2体、俺が1体、他が2人で1体。
1往復で5体の食料を運ぶ。
3往復目から太陽が顔を出し、さらに運べる数が少なくなった。
途中蟻に襲われたりとトラブルもあったが、ほぼ丸1日かけてようやく全ての運搬が終わった。
「あー!つっかれたー!」
「本当にありがとう。お疲れ様」
「レスティマー。水おねがーい」
「うん。すぐに持ってくるね」
本当は今夜遠征に出るつもりだったが、流石に明日に回そう。
今日はもう食って寝るだけ。1歩も動きたくないわ。
重労働を続けた6人は、要求した水を待たずして入口付近ですやすやと寝息を立ててしまった。
「……うおっ!?こんなとこで寝てたのか……体バキバキじゃん」
誰かが、恐らくレスティマだろうが、毛布代わりの蝶の羽を掛けてくれたようだが、寝コリはかなり酷い。
適当にストレッチでもして、今夜の出発に備えよう。
「おーい、全員起きろー!もう昼だぞー!」
俺は未だ爆睡中の他のメンバーを無理やり起こす。
そこにダエルも混じっているのはなかなか珍しい光景だ。
「ん……おはいたたっ」
「あー、筋肉痛か?大丈夫か?」
「ちょ……体伸ばすの手伝って」
「はいはい」
男子は俺とダエル。女子はチア以外は動くのも辛そうだ。
「筋肉痛なー。いやー、辛いよなーよっ」
「イッ――」
俺たち狩り組はいわば戦士。
筋肉痛だろうがなんだろうが、無理やりにでも引き伸ばして動けるようにしてやるのだ。
「な、なんでヴァルたちは普通に動けてんのさ」
「いや、それはまあ、「日頃の鍛え方が違うから」」
「うぐ……じゃあ、この痛みはどうやって克服したの?」
「「慣れ」」
「うぐ……脳筋どもめ」
脳筋か。
こんな力こそパワーな世界では褒め言葉だぞそれは。
だが、そんな脳筋以外は辛そうか?
「出発の日時はどうしたい?かなりの食料が取れたから数日なら遅らせてもいいが」
「今夜」「今夜」
「明日」「明日」「明日」
ふむ。予想通り脳筋かそれ以外かで割れたか。
ならば――
「出発は明日だな。しかし、明日と言ったからにはそれまでに治しておけよ」
「あー、ありがとー。今度ご飯分けてあげるー」
どんどん出発が遅れるが、いいか。
できるだけ安全に。これに優るものは無いからな。
そういうわけで、それから約30時間後。
同年 5月14日 19:00 東京エリア
「さて、全員筋肉痛は治したな?」
「もちろん!完全復活!」
「よし。只今より遠征を開始する。
目標到達地点は千葉、房総半島。
期間は最長で1ヶ月とする。
全員無事に帰れることを祈って、出発!」
狩り組の6人は、家族全員に見送られながら危険な旅へと出発した。
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