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 同年 5月10日 21:00 東京エリア

 

「レスティマ、昨日の蟻はどれくらい減った?」

「半分くらいだね。あと一日は持つと思うよ」

「そうか」

 

 ならば今日は狩りに出る必要も無い。

 武器類の調整は手伝おうとするとイニアに怒られるからな、ダエルとトレーニングでもするか。

 

 荒廃したこの世界で暇な時など殆ど無い。

 敵は自分たちよりも圧倒的に力強く、巨大で、数も多い。

 俺たちも少しでも強くならなければ。そうしなければ、気づいた時には奴らの腹の中だ。

 

 

「ダエル、腕立てをやるから手伝ってくれるか?」

「ああ」

 

 彼は大岩でウエイトリフティングの最中だったようだ。

 いやそれにしても、よくもそんな重いものを持ち上げられるな。俺なんて少し浮かせるのがやっとだ。

 

 俺は床に両手をつけ、腕立ての準備姿勢を取る。

 え?腕立てに手伝いなんか必要ないって?

 いやいや、そんなに生ぬるいトレーニングじゃないのさ。

 

「よし、こいダエル!」

 

 俺が声をあげると同時に、巨漢が背に飛び乗る。

 

「ぐっ……ぅ、おお!」

 

 そのまま潰れないように100回を3セット。

 リーダーを任されてからこれを続けているが、なかなか力は付いた。ダエルとは比べられたくないが。

 

「……はぁ、はぁ……っはぁ」

「ペースが上がったな」

「ほん……とか?」

「ああ、2分程早くなった。それだけ余裕が出てきたということだ」

「よ……ゆう、な……わけある、か……ボケェ……」

 

 ここでダウン。大体いつもそうだ。

 それからダエルは、俺を大岩に乗せてウエイトリフティングの続きを始める。ほんとこの……バケモノめ

 

「ヴァル、起きろ。走り込みするぞ」

「ん?お、おお!」

 

 腕の筋肉を鍛え終わったら今度は脚。

 トレーニング場として使っている空間をぐるぐると何周も走り回る。

 俺は腕立てだけだから脚に大したダメージは無いが、ダエルは違う。大岩を持ってスクワットだってしていたのだ。

 本当にどうなっているのだろうか。大昔にはゴリラという生物が居たそうだが、それの子孫だったりして。

 

「考え事をするな、遅れてる」

「あ、クソ!」

 

 この空間はそこまで広いわけでは無い。それでも1周差は付けられたく無い。

 ダエルはランニングのつもりか飄々とした顔がムカつくが、俺はダッシュに切り替えて後を追う。

 

「……はぁ、はぁ……っはぁ」

「おつかれ、走りながら何を考えてたんだ?」

「あ?……お前……が、ゴリラかもっ……てこと」

「そんなことかよ。人だとは思うがな」

 

 ダエルはポリポリと頭を掻きながらあっけらかんと答える。

 本当に人間だと思っているようだ。

 

「それでどうして、ここまで差がつくかね」

「さあな。俺も知らん」

 

 ピキっと来るが彼も家族。ここまで心強いやつはなかなか居ないから許してやろう。

 俺は謎の上から目線で一瞥してからトレーニング場を後にした。

 

「さてとメシメシ〜」

 

 筋トレ後は食事だ。

 2000年代にはサラダチキンなどという便利なものがあったようだが、今は鳥なんて希少中の希少。生きている間に1羽でも見れたら良い方。

 もしかしたらもう絶滅しているかもな。


 では何を食べるのか。

 蟻なんかを食っているのだから想像はできるだろう?

 豊富なタンパク質。抵抗されても怪我をする心配無し。子供でも飼育できる。

 

 そう、芋虫だ。

 

 気持ち悪いと思うだろうが、これが最高に栄養価が高い。

 外を跋扈する巨大虫なんかよりもよっぽどだ。

 というか、こんな世界で生きていくためには食べ物に文句なんて言っていられない。女子供だって文句を言わずに食っているぞ。

 そんな芋虫だが、まだまだ希少品。おやつ代わりにパクパクというわけにはいかないのが残念だ。

 

「んー!やることも終わったし、チビたちと遊ぶか!」

 

 遊ぶ。

 それは武器の扱い方を教えるということ。娯楽などに興じている時間などあるわけが無い。

 

 俺はチビたちが集まる広場へと向かう。

 

 

「なんだ、レスティマも来てたのか」

「うん。小さい子に字を教えにね」

 

 待機組、特にレスティマはチビたちの面倒を見るのが得意だ。そのおかげで最年少より1つ上はもう本を読める。

 

「ヴァルはいつもの?」

「ああ。戦士を育てなきゃだからな」

 

 壁に立てかけられた1本の棒を手に取る。1メートル弱の、石で出来た棒だ。

 

「年長組ー!集まれー!遊びの時間だー!」

 

 ワーワーギャーギャーと、広場か一気に騒がしくなる。

 そんな集まってくる彼らの手には武器、刃が潰された蟻の顎が握られている。

 数は3。それが一斉に襲いかかってくる。

 

「よっと、ホッ……まだまだ遅いぞー!」

 

 俺は鎌を使う前は槍を使っていた。だから一応の棒術はこなせる。

 

「クッソー、ヴァル兄強すぎ!」

「はっはっ俺で苦戦しているようじゃ、ダエルにはまだ任せられんなー」

 

 そんな軽口を叩きながらも、チビたちが疲れて動けなくなるまでそれを続ける。

 

「あー!あと少しだったのにー!」

「僕も!届いたと思ったのに武器がなかった!」

「あたしはまだまだ……」

「いやいや、みんな強くなってるよ。それに、本番は俺じゃないんだ。力は強いしデカいけど、頭は悪い。ちゃんと本読んで、習性を理解しておけよ」

 

 

 狩りのない日はこうして終わってゆく。

 日が昇れば皆寝息を立て、月が昇ればそれぞれの仕事をこなす。

 そうして1日、また1日と生きてゆくのだ。

 

 

 

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