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 同年 5月11日 02:30 千葉エリア

 

 

 ――クソッ クソッ クソッ

 

 失敗した!私のせいで!

 

 

 失敗は成功のもとなんて言うけれど、それは命あっての物種。平和な世界だからこそ言えることだ。

 

「ごめん、みんな……ごめんなさい」


 こんな世界では、失敗の代償が命なんてことはザラにある。

 

 私は逃げながら、運良く見つけた洞窟に駆け込んだ。

 もしここに虫がいれば、死んでもいいとさえ思って……

 しかし幸か不幸か、どうやらここに虫は居ないようだ。

 いや、もしかしたらここは――

 

 私は鼻水で苦しくなったマスクを外す。

 

「やっぱり、シェルターだ」

 

 運良く見つけた洞窟。それは放棄されたシェルターだったのだ。

 入口が下がっていたし、虫が入って来れないように狭めてあったからもしやとは思ったが……これで死ぬ機会は失ったか

 

 

 私は灯りのない真っ暗闇を手探りで進む。

 途中でカラカラと、何やら軽いものを蹴飛ばしたりした。想像したくは無いが、きっとあれだろう。

 

「これは……なんだ、炉か?」

 

 シェルターの中はよく考えられていて、基本的に炉がある場所と厨房以外では火が使えないようになっている。

 そうでもしなければシェルターとしての機能が果たせない。皆酸素中毒になってしまうのだ。

 

「この石造り、これは……蓋か。痛っ、椅子……だよな?なんでこんなところに」

 

 うん、やはりこれは炉だ。

 一度灯りをつけよう。

 

 蓋を開けて、虫の糞を1つ放り込む。

 外に出っ張った金属の棒を引けば……内で火花が散り、一瞬で燃え上がる。

 

「はぁ……あの時に火があれば」

 

 後悔してももう遅い。死んだ人間は、誰一人として帰ってくることは無いのだから。

 

 

 しばらく呆っと炎を眺めていれば、備え付けられた氷冷石から水が滴る音が聞こえてくる。

 水を飲もうと炉の後ろへ回れば、そこにはガラスで作られたコップが。

 

「凄いな。ここに住んでいた人たちの技術は相当なものだ」

 

 基本的にガラスなど、物資が潤沢でなければ作ろうとすら思わない。椀や盆、それこそコップなど、虫の殻で代用できてしまうからだ。

 それなのにコップがあるということは……惜しい人材を亡くした。

 

 

「そろそろ濾過も済んだだろう」

 

 遺されたコップを使い、溜まった水を掬う。

 

「はっ……酷い顔だ。死相でも出てるんじゃないか?」

 

 仲間に綺麗だと言われた銀髪は血と砂で汚れ、顔には転んだときに出来た無数の小さな傷。

 それでも生きているだけマシだと小さくため息をつく。

 

「これから、どうしようか……」

 

 ぬるい水を一気に飲み干し、つい漏れ出た言葉。

 仲間は全員失った。燃料は幾つかあるが食料は少ない。

 転がっていたものがカラカラ音をさせていた事からも、このシェルターは放棄されて随分経つだろう。つまり奥で栽培されていたはずの野菜類にも期待はできない。

 

 そして武器も、無い。

 

「絶望的、だな」

 

 轟々と灯りを放つ炉の前で1人、全てを失った女性、ジャンヌは項垂れていた。

 

 

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