Find our color⑨

 「そういえば、歌どうする?」

 先輩の試験まであと1週間となった今日、明音が、私達が避けていた話題を切り出した。

 「普通はギターの人が歌うんじゃないの?紅葉先輩もそうだし。」

 私はてっきり千代さんだろうと思ってた。

 「別にギターが歌うなんて、決まってないわよ。ベースボーカルのバンドも結構あるし、ドラムが歌うこともあるわよ。」

 千代さんはあんまり歌いたくないようだ。


 「よし!そしたら、これからカラオケ行こう!」

 少しの静寂を閉じるように明音が、元気に提案する。

 「そうね。2人の歌も聞いてみたいし。」

 千代さんがのっかる。

 「……。」



 やって来ました。駅前のカラオケボックス。小学生の時、家族で来た以来だ。明音は、ガチャガチャと機械をいじってる。そもそも、人前で歌うなんて、いつ以来だろうか。そんな感じで私は固まっていた。

 「エントリーナンバー1番!橘明音。精一杯歌います!」

 明音は、ノリノリだ。彼女の宣誓が終わるとすぐに曲が始まる。曲は私も聞いたことがある清涼飲料水のCMソングだ。私の知っている、明音の性格とオレンジの声色と合い、まだ4月なのに夏を感じる。


 明音は、最後までパワフルに歌いきった。明音のイメージのまんまの歌だった。

 「次は千代さん行ってみよう!」

 どうやら、明音が司会のようだ。そして、私は最後みたいだ。

 「エントリーナンバー2番。鎌田千代。しっかり歌います。」

 どうやら、この宣誓も続くようだ。

 千代さんが選んだのは、まさかの洋楽だった。確か、アメリカのロックバンドだった気がする。少し古い曲だと思う。ゆっくりとした曲調に、千代さんの意外とかわいい声があわさり、天国のようだった。

 

 「洋楽とは、かっこカワイかったよ。」  

 明音が驚きながらも楽しそうに言う。

 「私も聞いたことある曲だった。意外と可愛かった。もっとクールかと。」

 私は思ったことを全て口に出していた。

 「…ありがとう。」

 千代さんは顔を真っ赤にして、恥ずかしがっている。ギターを弾いてるときや、歌ってるときは恥ずかしそうにしないのに、ホメられるのに弱いらしい。

 「さぁ最後はいろはの番だよ。」

 自分の話から逸らすように、千代さんは私に振る。ここでダダをこねても、どうにもならないだろう。そろそろ、決心するしかないようだ。


「エントリーナンバー3番。若葉いろは。緊張してるけど、頑張ります。」


 こうして、私の歌が始まった。私は、動画サイトでおすすめに流れてた曲を選んだ。女性ボーカルの曲だがかっこよくて気に入ってる。部屋とかで寝る前に聞いたりしてる曲なので、歌詞は全部覚えてる。歌ってる途中は、変じゃないかなとか、私の声と本物の声が違って違和感があったりしたが、意外と楽しく歌えた。


「いろは、意外とかっこいい系なんだね。」

 明音が、驚く。

「私もびっくりした。アイドルの曲かと思ってた。」

 千代さんも驚いていた。


 こうして、全員1回、歌い終わった。その後は、みんなで楽しくカラオケを満喫してしまっていた。

 帰り際になって、千代さんからボーカルの話が出た。明音は「うーん。」と唸っている。

 「あのさぁ…。」  

 私は、2人の歌を聞いて、そして私も歌ってみてから思ってた事を2人に話す。そしたら、2人ともその案にのってくれた。こうして、ボーカル論争は幕を閉じた。 

 

 試験まであと1週間だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る