Find our color⑦

部室に残された私と千代さんは、それぞれのパート練習を始める。私はベースを弾きながらも、耳は千代さんのギターを聞いていた。相変わらず、モノクロな綺麗な音色だ。

 「集中できてないみたいね。」

 「あぁ。ごめんなさい。ちょっと聞き入っちゃって。」

 「聞き入るって、自分のベースに?」

 「ううん。千代さんのギターに。」

 私は少し恥ずかしかったが、しっかりと答えた。

 「私の?そんなに良かった?」

 「うん。1週間前を思い出したよ。」

 「1週間前?」

 「初めて千代さんのギターを聞いたとき。公園で。」

 「あぁあの時ね。今はエレキだけどね。そういえば、どうして逃げたの?」

 千代さんは、私にとって少し都合の悪いことを聞いてきた。すっかり忘れていると思ったのに...。

 「うーん。なんでだろう。なんとなく?」

 「なんとなくって...」

 「確か...、カッコいいと思って、目が合ったと思って、その後恥ずかしいと思って...。...逃げた。」

 「よく分かんないけど、カッコいいって思ってくれたんだ。」

 「うん。それと、一緒にやりたいと思った。」

 「そっか。それで初めて軽音部来た時の『告白』につながるわけね。」

 千代さんは私をからかうように言う。

 「『告白』って...。でも、そうだよ!あの時から、千代さんのギターの音色は忘れられない。」

 「『告白』でしょ。すごいビックリしたんだから。でも、それ以上に...」

 千代さんの最後の声は小さくて聞こえなかった。

 「最後なんて...」

 「なんでもない。でも、そっか。私の演奏が忘れられないか...。それはギタリスト冥利に尽きるね。」

 千代さんは私の問いかけに被せるように答える。そして、また、私をからかうように言う。恥ずかしがっている私が、千代さん的にはツボのようだ。

 「もう!練習しましょう。」

 「そうだねー。」

 千代さんはまだニヤニヤしている。でも、私をからかいたいという気持ちだけではなく、嬉しそうだ。そして、練習に戻ろうとすると、明音が元気に部室の扉を開ける。

 「遅れてごめーん。さぁ練習しよ!」

 明音も、私がベースにはまっているのと同じように、ドラムにどっぷり浸かっている。軽音部に見学に来てから、運動部も見学に行くと思っていたが、全くなかった。むしろ、終礼が終わるとすぐに私の席に来て、私を引っ張っていくほどだ。

 「今日はまず合わせてみようか。」

 千代さんの提案に私と明音はのる。そうして、紅葉先輩との練習、千代さんとのおしゃべりから始まった、少し変わった部活動は、3人の最近の日常へと戻っていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る