Find our color⑥

 「こんにちは。」

 その静寂を破ったのは千代さんだった。

 「お疲れー。千代。」

 「お疲れ様です。紅葉先輩。いろはと2人ですか?」

 紅葉先輩は千代さんも呼び捨てになった。千代さんも、呼び捨てにされることに抵抗はないようだ。私も、呼び捨てにしようと思えば、出来るのだろう。でも、今はこのままでもいいかなと思う。

 「千代もいろはとおんなじこと言うんだー。先輩が私だけでは不満かい?」

 千代さんも私と同じことを言った。仲間がいた。そして、紅葉先輩は私に言ったのと同じことを言った。

 「そんなことは…。」

 千代さんが慌てている。焦った千代さんは、これまでの比較的冷静な彼女と違い新鮮だ。

 「意地悪しすぎちゃったかな。練習しに来たんでしょ。私はそろそろ出るからどうぞー。」

 ニヤニヤと笑いながらも、少し申し訳なさそうにする。そして、座っていた椅子を千代さんに差し出す。

 「もう出られるんですね。」

 私は、聞こえるか聞こえないかの小声でつぶやいた。

 「まぁそんなに寂しそうにするなよ。またすぐ来るさ。いろは。千代。そして、まだ来てないけど明音。3人の演奏を楽しみにしてるよ。」

 紅葉先輩に聞かれていたようだ。紅葉先輩は、私と隣に座っている千代さんに近づく。そして、私たちに笑いかけながら言った。その明るい声の裏に確かな真剣さがあった。その声に、私たちは背中を押されるように返事をする。

 「「ありがとうございます!」」

 紅葉先輩は私たちの声を聞くと、うんうんと頷き、そして「じゃあねー。」と言いながら部室を出ていった。



 「気になるんなら入れば良かったじゃない。」

 部室を出て私は小さく元気なメンバーに話しかける。彼女は長い髪をユラユラさせ、アホ毛をクネクネさせていた。そのアホ毛がドア窓から見えていたから気づいたのだが。でも、ソレがなくとも、なんとなく居る気はしていた。

 「えへへ。バレちゃった。」

 「まったく…渚は…。2人にバレたらどうするのよ。」

 「千代ちゃんにはバレなかったよ。そこに隠れたから。」

 悪びれる様子もなく、渚は部室の奥の物置の一部を指した。 

 「この様子だと、麻衣もどっかから見てそうね。」

 私はふと、もう1人のメンバーの名前をだす。


 「バレた?」

 麻衣は渚の後ろからヒョッこりと顔を出す。まさかホントに居るとは…。言ってみただけで、流石にいないと思ってた。

 「えー。麻衣!?いたんだ!声かけてよー。」

 渚は私以上に驚いている。彼女も知らなかったようだ。てか、後にいて気づかないとは…。麻衣が凄いのか、それとも渚が抜けているのか…まぁどっちもだろう。

 「やっぱり、私も気になっちゃった。」

 麻衣も微笑みながら言う。

 「途中で渚が、いろはちゃんに教えに行くんじゃないか、と思ってヒヤヒヤしてたよ。」

 麻衣は続けて言う。確かに、頭で考えるよりも、行動に出やすい渚なら有り得る。そう思うと、渚が居ることが分かってながら、いろはに演奏させたのは危険だったかもしれない。

 「私もムズムズしてたよー。それに、私もベース弾きたくなった!」

 どうやら、ホントに危なかったようだ。


 「次に渚が、鍵当番のときに教えればいいでじゃない。」

 「確かにー!麻衣ありがとうー!」

 渚は今度はウキウキし始めた。ホントに忙しい子だ。少し騒がしくなってしまった。それに私達は「用事」がある。そろそろだろう。

 「あんまり居ると、3人揃ってバレちゃうよ。」

 私は2人に言う。

 「そうだねー。せっかく我慢したのに、バレちゃったら勿体ないもんねー。」

 渚は小声で言う。彼女なりの配慮なんだろう。ホントに素直だ。

 「さぁ行きましょう。」

 麻衣の掛け声に乗っかり私達は部室を離れる。そして、まだ1年生には言えない「用事」に向かうのだ。

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