第3話
毎日の仕事にも慣れて来た。
大学を出た後、俺、佐藤 直樹(さとうなおき)は、老舗大型書店グループの新省堂(しんせいどう)に就職した。本社に勤務する事になり、緊張しながら初めて仕事に就いた時をいまだに思い出す。
はや5年。
時が経つのは早い。若いのにって思うかもしれないけれど、やはり毎日充実していると時間が経つのが早く感じられるのだろう。
いつも通りに出勤して、仕事をこなしていた。
だが、今日は何だか体がだるい。
風邪…か?
昔から熱が出る前は、こんな感じで体がだるくなり、しまいにはゾクゾクしてくる。
まずいな…。
そう感じながらもその日の仕事をこなし、退勤時間になった。
今日はまっずくに帰って、熱い風呂に入り、早く寝よう!
幸い、明日は休日だ。有難い!
念のために、スポーツドリンクや、冷えピタなどを買い込み帰宅した。
まだ実家から出勤しているため、家族にうつさないように気を付けなければ。
「母さん、何だか熱が上がりそうな感じだから、風呂に入って早めに寝るわ。」
話ながら、母さんに買い込んで来た袋を渡した。
「まあ、疲れてるのかもね〜。就職して5年、あんた休んでないもんね。明日は休みなんだし、あったかくして早く寝なさい。」
母さんは袋の中身を手早く冷蔵庫にしまった。
風呂上がり、予想通り熱は上がった。
最初は38度を越えた辺りだった。
買い込んだスポドリを冷蔵庫から取り出し、冷えピタをでこに張り付け、すぐに2階の自室に向かう事にした。
「最近、何とかっていうウィルスが流行ってるってニュースでやってたけど、それだったりしないよね?風邪みたいな感じの症状だって言ってたけど…?」
母さんは心配気にしている。
「いや、普通の風邪か、悪くてインフルエンザとかかもな。熱高いし。俺、寝るわ。
母さんも、あんまり俺に近寄らない方がいいかもしれない。うつるといけないからさ。」
母さんは、なおも心配気に後を付いて来たが、階段の下で見送りつつ
「おやすみ。何かあったら起こしていいから。」
「ありがと。おやすみー。」
こんな時、実家の有り難みを痛いほど感じる。
自室に入るなり、ベッドに倒れ込む。
ゾクゾクするし、段々咳が酷くなってきた。
風呂がいけなかったのかもしれない、などと考えつつ、徐々に意識が朦朧としてくる。
体感としては、熱の上がりかたが尋常では無いように感じられた。
深夜--------------
ハアハアと肩で息をして、酷い咳と戦っていた。
今までかかってきた風邪の類いとは比べ物にならないくらいのキツさだった。
息苦しい…。
心配した母さんが部屋に入って来た。
マスクを着けた母さんが何か言っているが、よくわからない。
「なおきっ!大丈夫?なおき!!」
苦しい!!
そう感じた刹那、グッと心臓が重い物に押されたような感覚がした。
次の瞬間、先程までの苦しさが嘘のように体が軽くなった。
程なくして目が覚めた。
あんなに苦しかった症状が消えてる。
「母さん…?父さんまで…?」
何でか二人揃って泣きながら周りを囲んでいた。
「あんた、大丈夫なの!?」
母さんが肩を掴み体を確かめる様な仕草をする。
「お前すごい苦しそうにして、急に動かなくなったと思ったら、肌が真っ青になって…何とも無いのか?」
あまり焦ったりするイメージの無い父さんが、慌ててる様子は珍しかった。
翌日、病院で検査を受け、自分の心臓が動いていない事を知った。
じゃあ、今の僕は何なんだ?
まさか、自分が未知のウィルスに侵食されるなんて、予想もしていなかった。
ゾンビは微笑んだ さが あさひ @asahi-saga
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